第39章 【妹貸出依頼】
「どうして俺に。」
「美沙ちゃんに直接言っても良かったけどさ、どうせ君のとこに話が行くでしょ。それなら先におにーちゃんのオッケーもらって外堀埋めた方が話早いじゃん。」
「よくおわかりで。」
力は苦笑する。バレー以外に発揮される及川の察しの良さには困ったものだ。
「じゃあまずは俺から美沙に話をしておきます。ただし、美沙が嫌がった場合は許してください。」
「いいよー、じゃあよろしくね。」
音声通話が切れる。力はため息をつき、しばしスマホの画面を見つめていた。
そういう訳でキノコキャラのぬいぐるみを抱き締め、先日お小遣いを貯めて買った鉱物の本を読んでいた美沙はやってきた義兄の力から及川に貸し出しされる話を持ち出されることになる。
「兄さん、私は物品ちゃうで。」
「俺もそう思うけど。」
「ちゅうか及川さんは私をパグ犬かなんかと思(おも)てはれへんか。」
ここで力がブブブと吹き出し、美沙は首をかしげる。
「兄さん、どないしたん。」
「い、いや、別に。」
「ほんで話戻って及川さんは一体どないしはったん、岩泉さんにどつかれすぎてトチ狂いはったん。」
「何か癒しがほしいんだって。」
「イミフ(意味不明)すぐる。」
「俺もそう思うけどね、どうしてもだって。でも嫌なら無理しなくていいぞ。」
美沙は少し考えた。及川については友人と思っていてしかも恩がいくらかある。癒し云々のところはよくわからないが別に知らない相手な訳じゃなし、何より義兄の力が許可をしている。ならば
「ええよ、わかった。」
美沙は決めた。
「そうかい。じゃあ後はそっちで頼むよ。」
「うん、私から及川さんに連絡する。」
「そうだな。予定決まったら教えて。」
「わかった。」
美沙が返事をすると義兄の力は何とも言えない顔で美沙を見つめている。
「兄さん、」
何となく察した美沙は両手を力に向かって差し出した。
「抱っこ。」
力は目を一瞬丸くし、しかし微笑んで美沙の体を抱き寄せる。抱っこされた美沙はスリスリグリグリと義兄の肩の辺りに頬を擦り付ける。