第5章 【花見】
結局この14人プラス1人は弄り弄られ、飲み食いしつつ、飛び跳ねる奴は抑えられながらも他の客の騒ぎに巻き込まれることもなく無事にわいわいやっていた。
そうやって周りの客も引き上げ始め、烏野の一行もそろそろ帰ろうと片付けを始めて皆でゴミをまとめたりしている時だ。ザザアと強めの風が吹く。
「あっ。」
谷地が声を上げ、他の14人全員がまた桜を見上げた。まさに桜吹雪が吹き付ける。田中や西谷ですら声もなく見とれる中、ふと縁下美沙が桜をモチーフにした人気の合成音声の楽曲を口ずさんだ。歌ってみた動画の人ではない美沙のそれは胸打つほどうまくはなかったけれど義兄の力他、静かになってきた辺りに響くその声に男子排球部の面々は何とはなしにそれに聞き入る。風は一瞬収まったが、美沙の歌う声に呼応するようにまた吹き出す。ああ、と花びらに包まれる義妹を見た力は思った。頼むからどこにも行かないでくれよ。
「縁下。」
成田に声をかけられて力は我に返った。
「心配しなくてもあの子は神隠しになんか合わないって。」
結構いいところを突かれ、力はあ、う、とまるっきりその義妹が言うような台詞を口にした。
更に時間は経って帰り道、烏野の皆と別れて縁下兄妹は家に向かって歩いている。
「なんか、ごっつ疲れた。」
「慣れないから緊張したか。」
「そーかもしれへん。でも桜は綺麗やったし皆さんと一緒におれてめっちゃ楽しかった。」
「そりゃ良かった。」
「兄さんは」
いつものように何の裏もなく義妹は尋ねる。
「みんな無事で良かったよ。もちろんお前も。」
「兄さん。」
美沙が疑問形で呼びかける。力は無意識に美沙の小さな手を取り、ごつい自分の手で握っていた。
そうすれば義妹は何処にも行かないし誰にも連れて行かれないような気がした。
次章に続く