第5章 【花見】
「縁下、多分通じてないぞ。」
モグモグしながら木下が呟く。確かに田中と西谷はキョトンとしていた。
「面倒臭いな、美沙に聞いてみろ。」
「成田っ、こいつ妹に投げやがったっ。」
「新しいな。」
「美沙ーっ、モウキンルイって何だーっ。」
でかい声で問う西谷にやや遠くから義妹が答える。
「鷲とか鷹とか梟とかやけど何でそないな話になったんですかー。」
「力が美沙に聞けっつったぁ。」
「兄さんっ、どゆことっ。」
力は笑ってごまかした。美沙がもうと言っているのが口の動きでわかる。しまいに義妹はずんずんとこっちにやってきた。
「めんどなったから私に振ったやろ。」
横に座り込み呟く美沙に力はやはり笑って答えた。
「わかった。」
「いくら何でもわかるわ。」
「そう怒るなって。」
力はここで無意識に義妹の肩をそっと抱き寄せて言ったのだが、彼にしては迂闊(うかつ)だった。木下と成田が若干距離を置き、菅原がヒューヒューと言い出したのである。
「兄さんっ。」
「しまったっ。」
兄妹は2人で声を上げたがもう遅い。
「熱いねー、お2人さんっ。」
「スガっ、そういうのやめてやれってっ。」
「でもあれは言い訳できないだろうなぁ。」
「大地、笑ってる場合かっ。」
「つ、ツッキー、今の見たっ。」
「ちょっと、何かうっすら嫌な予感がするんだけど。」
「影山、縁下さんと美沙って兄妹だよな。」
「そー、のはずだけどよ。何だみんなのこのノリ。」
3年や1年が好き勝手言いだす。
「縁下、」
成田が呟いた。
「お前やりよったな。」
木下もやや引き気味に言う。
「悪い、つい。」
さすがの力も顔が熱くなり、うつむくしかない。
「いや俺らはいいけど。」
「縁下、将来設計はしっかりな。」
「ふぎゃあぁあぁあぁ、兄さんの阿呆ー。」
「ごめん、美沙。今回はホントに。」
兄妹でかなり阿呆な事態を引き起こしているところへまるで慰めるかのように桜の花びらがまた降ってきた。力の肩をペシペシしていた美沙がふと天を仰ぎ、降ってくる花びらを見つめる。そんな義妹の横顔を見て力は一瞬ドキリとした。あるはずがないと思いつつ義妹が桜に紛れて姿を隠してしまうのだはないか、そう思ってしまった。