第37章 【嫉妬】
「兄さん取られるかもって思ってしもた。お願いやから兄さん断わってなんちゅうことも思ってしもた。せやから兄さんが断わった時ホッとしてもた。」
体が自然に震える。
「最悪や、私。兄さんが色んな人に過保護や言われるくらい愛されとる癖にそんなこと思(おも)て。」
美沙は泣き出した。今まで自覚していなかった黒い感情をしかも義兄に吐露するのは恐ろしい。こんな義妹をなおも義兄は愛してくれるのだろうか。義兄がはあああとため息をつくので美沙は不安になった。しかし美沙は終始うつ伏せだった為気づいていなかったが力は微笑んでいた。
「何だ、そんなことか。」
「へ。」
聞き返した瞬間に義兄に抱き起こされ、そのままやはり抱っこされる。
「びっくりさせるなよ。」
「えと、その、」
美沙はおずおずと尋ねる。
「怒らへんの。」
「何で怒るの。」
「だって私、やきもち焼いたわ人の不幸願ったわ兄さん疑ったわで。」
「阿呆。」
美沙の言葉に合わせて力は言った。
「寧(むし)ろ安心した。」
「え。」
「不安がってたのは俺だけじゃなかったんだなって。」
「兄さん」
「大丈夫だよ、美沙。そんなこと言ってたら俺なんかどうしようもない。」
「えと」
首をかしげる美沙の片頬を力はこいつは、と言いたげにむにっとした。珍しいことだ。
「気づいてなかったのか。及川さんがお前の周りウロウロしたり、灰羽君がお前の肩掴んじゃったり、山本君がお前の手に触っちゃったりした時俺がどんな思いしたと思ってる。」
「んといやその、とりあえず私がボケやから何か心配してるんやなとは思ってたんやけど。」
「それもだけどね、取られたくないって思ってるんだよ、いつも。」
「あ、う。」
「前に及川さんに言われたの覚えてるか。」
「えと、あの人色々言わはるから、どれやろ。」
「ガラスケースに入れる勢いで過保護にしてるって。」
「あ。」
いつだったか力と喧嘩をし、家を飛び出した時だ。あの時美沙はたまたま遭遇した及川に捕まり、義兄が迎えに来るまで保護された状態だった。普段力と喧嘩などしない分よく覚えている。