第37章 【嫉妬】
いつもなら耳に入る範囲の会話なのに美沙はそれがまったく聞こえておらず、日向に話しかけられてもああ、とかせやな、しか言わないので日向にまで美沙が何かおかしいと言われる始末だった。
義兄の力は排球部の連中と別れてからの道中は何も言ってこなかったが帰宅して夕食や宿題を終えた頃合いに美沙の部屋にやって来た。
「兄さん、どないしたん。」
言いながらも自然と視線が逸れているところが美沙である。
「どないしたん、はこっちの台詞だよ。」
部屋に入ってドアを後ろ手に閉めながら義兄は言った。
「何かあったのか。」
「いや、べ、別に。」
言いながら美沙は後退りする。
「嘘つくな。」
義兄が一歩近づいて言う。
「とりあえず虐められたとか何とかはないから。」
「じゃあ何があった。」
また後退りする美沙、一歩近づく力、部屋の広さは知れている、あっという間に逃げ場がなくなり美沙は義兄の腕に捕まった。
「兄さん、離して。」
「駄目。」
予想通りの返事に美沙はやっぱりかと思い、力はそれを感じ取ったのかそのまま美沙を抱き上げてベッドに放り込んでしまう。
「で、何があった。」
ベッドに放り込まれ、おまけに義兄が上から覆いかぶさっているという義父母にバレたら言い訳出来ない体勢で美沙は尋問される。それでも物凄く言いづらい、だが義兄は聞くまできっとどかない。美沙はいつも通り観念して言った。
「気づきたない事に気づいてもて、ちょおショックを。」
「つまり」
先を促され、美沙は目を閉じて昼休み自販機前で聞きつけてしまった事を正直に話した。義兄がどう出るか見当がつかない、怖くて仕方がなかった。
「あれやっぱりお前だったのか。」
力は苦笑して言った。
「へ。」
やっぱりとはどういうことか。
「走った時の音にに聞き覚えがあるとは思ってたんだけど。」
「そんなんわかるん。」
「お前は自覚ないだろうけど足音に癖があるよ。」
「おおふ。」
美沙は言葉に詰まる。必死で走った自分は一体なんだったのか。
「で、話は戻るけど、そこで気づきたくない事に気づいたってのは。」
美沙はううと唸りしかし正直に言った。