第37章 【嫉妬】
「他に好きな子がいるんだ。」
義兄は言った。兄さんらしいと美沙は思う。相手は一体誰なのかと聞いてきた。
「それを言わせるのは勘弁してくれないかな。」
義兄はきっと困ったようなあの笑顔で言っているのだろう。そして相手は食い下がりまさかの言葉を口にした。
「どうして」
義兄が聞き返すのが聞こえる。
「そう思うの。」
相手は言った、噂を聞いた、2-4の縁下力は1-5にいる義妹と出来ている疑惑があるという。疑惑どころか本当であるそれに美沙は思った以上にめんどい噂が流れとるなと思いつつ、義兄の反応を伺う。
「美沙は関係ないよ。大事な妹なのは確かだけど。」
力は特に動揺した様子もなく言った。相手が泣き出したらしき気配がした。何とも言えない空気が流れる。アカンもう行こと美沙は思うのに足が動かない。
「本当にごめん。」
力が言うのが聞こえる。
「気持ちは嬉しかった、ありがとう。俺、もう行くね。」
義兄が動く気配がする。美沙は今度こそ見つかるヤバいと思い、大慌てで走る。モロに足音がするが構っていられない、姿さえ見られなければ多分何とかなる。そう思ってインドア動画投稿者にしては結構なスピードで飛ばした。1-5の教室に着いた時はゼエゼエハアハアぶりが半端ではなく、谷地に大変心配されてしまった。
「大丈夫、」
美沙は言った。
「多分、大丈夫。」
席について買ってきたお茶をぐいっと飲み、美沙は天を仰いだ。動揺したのは義兄が告白される現場に遭遇したからだけではない、自分の中にあった思うより黒い感情に気づいたからだ。
「どないしょう。」
美沙は呟き今度は机に突っ伏した。その様子を谷地がやはり心配そうに見つめていた。
隠し事が基本は下手な美沙だ、様子のおかしさはその後例によって義兄と一緒に男子排球部の連中と帰ることになった時も引き摺(ず)られた。
「縁下、美沙ちゃんなんかおかしくないか。」
菅原が言い、力も頷(うなず)く。
「俺もそう思います、何かあったのかな。」
「また意地悪言われたとかじゃないといいな。」
「ええ、帰ったら聞いてみます。」
「ちゃんと言うといいけど。」
「俺の言うことは基本的に聞くんでそっちは大丈夫かと。」
「それもそっか。」