第37章 【嫉妬】
縁下力と縁下美沙は義兄妹という関係とその相互依存ぶりが目立っていて、今や烏野高校内では知ってる奴は知ってる、よく知らない奴でも校内に義兄妹がいて何だかお互いべったりらしいという程度には話を聞いていたりする有様だ。べったり、と言っても主に義兄である力の方がひどいシスコンで自分が認めていない男子が義妹に馴れ馴れしくしようものなら密かに嫉妬し、所属する男子排球部の面々からも止められたり突っ込まれたりという方が目につく。しかし義妹である美沙の方はどうなのか。
美沙は正直言うと深く考えていなかった。義兄の力からは溺愛され自他共に認める過保護状態、おまけにそこから一線を越えた関係を持ってしまっていた為誰かに奪われるかもしれないといった発想がなかったのである。故に義兄が部のマネージャーである清水や谷地と話していても部活の事で用事がいっぱいあるんやな、と考えていたし、たまたま義兄が他の女子と話していても特に思う事がなかった。
あの時までは、である。
その時美沙は何も考えずに中庭の自販機へ向かっていた。いつもは義母に水筒を持たされているのだが今日はやたら喉が渇いて足りなくなってしまったのだ。てってってっと走っていき、自販機でお茶を買い、さぁ教室に戻ろうと思った時である。
「で、」
毎日聞いている穏やかな声が聞こえて美沙は足を止めた。言うまでもない、義兄の力だ。
「用事って、何かな。」
義兄に聞かれて答える声、明らかに女子のものだ。そして内容は完全に義兄の力への告白である。何もかもが聞こえた美沙は固まった。相手の女子の言い方から本気である事がうかがえる。義兄の人柄を考えたら惹かれる女子がいても不思議な事はないのに何故今まで気がつかなかったのだろう。こればかりは半分ボケ呼ばわりされても仕方なかろうと美沙は思った。そして内心焦った。義兄はどう答える。
「ごめん。」
申し訳なさそうに、しかしはっきりと義兄が言った。
「それには答えられない。」
美沙は安堵して足の力が抜けそうになり、そんな心持になった自分にゾワッとした。自分は今何を思った。一方、相手にどうしてかと聞かれて力は一瞬黙る。声を聞いているだけだが義兄が目を逸らして少し考えている様子が美沙には容易に想像出来た。