第36章 【蛍石(ほたるいし】
「本人は嫌味言ってんじゃないと思う。」
「それわかってるから困るんですよ。」
「ごめんよ。」
力は言って月島の肩に手をやった。
「真っ直ぐにしか進めない奴なんだ。どうしてやったらいいかな。」
月島はう、と唸る。
「もうそのままでいいです。」
しばし沈黙してから月島は呟いた。
「日向のど天然を何とかするのと同じくらい無理があるでしょうから。」
「何でそこで俺なんだよっ。」
「他に比較しようがないでしょ、無駄に一直線なとこも何気に似てるし。」
「ムキーっ。」
「こら、よせ。」
力は慌てて割って入り、事なきを得た。
その後日、力は美沙からこんな報告をうけた。
「月島が若干ふいんき変わった気いする。」
「本当は雰囲気(ふんいき)だってわかってるくせにネットスラングで遊ばない。だからお前は半分ボケなんだよ。で、どうしたの。」
「今日急に言われてん、もうアンタはそのままでいいよどうせ直んないデショって。せやけど山口に聞かんでも投げやりとか嫌味とかやないってわかってん。」
「月島が。」
美沙はうん、と頷く。嘘ではないことは聞くまでもない。
「何かあったんやろか。」
「さあ。月島は複雑だから。」
力は呟きながらも美沙にはわからないように微笑んでいた。
次章に続く