第36章 【蛍石(ほたるいし】
「あれホンマに怒ってへんの。」
「うん、照れ臭くていてらんなくなっちゃったみたい。」
「ほな早よ追っかけたげて。あいつがへそ曲げるんかどうかは知らんけど。」
「あ、でもちょっとだけ。その、美沙さんの言ってる蛍石って光ったりするの。」
美沙はうん、と頷いた。
「熱したら光るんやて。本に載ってた写真でしか知らんけど綺麗やった。」
「そうなんだ。」
「月島も意外とそうなんかもしれへんね。」
山口はあまり表情の変わらない美沙の横顔をちらりと見て目を丸くした。
案の定と言うべきかこの話は美沙の義兄である縁下力に伝わった。
「縁下さん、貴方の妹の半分ボケは何とかなりませんか。」
「え、急にどうしたの。」
月島はムスッとして昼休みにあったことを話す。
「ああごめんよ、俺は気にならなかったし他も面白がる人ばっかだったから放置してたけど今度から気をつけるように言っとく。」
「頼みます。」
「だけど少し意外だな。」
「何がです。」
「美沙から自分から月島に話したのが。」
「はぁ、あいつとは多少は話してますケド。」
「自分から月島にネタ振ったのは初めてじゃないか。」
「何が仰(おっしゃ)りたいのか。」
尋ねる月島に力は微笑んで言った。
「あいつも月島にちょっと歩み寄ってきたんだと思う。」
「よくわかりませんね。」
「まぁ小さい変化だからわかりにくいとは思うけど。こっち来てから結構経つけどあいつ、月島にはちょっとだけ遠慮してたみたいだから。」
「どこが。」
やかましわと言い返されたり月島語はわからんなどと言われたりしている方からすればそうとしか言いようがないかもしれない。
「話の流れでの返ししかなかったろ。」
「あ。」
「そういうこと。まぁ、今後もよろしくしてやって。」
「別に拒否るほどのことはありませんから構いませんけど。流石にまともな日本語は通じるようですし。しかし、」
月島はここで一旦言葉を切る。
「蛍石、ねぇ。こっちゃそんな綺麗なもんじゃありませんよ。」
「あ、それで思い出した。美沙さん言ってたよ、蛍石って熱したら光るんだって。」
「だからどうなの。」
「もしかしたらツッキーもそうなんじゃないかって。」
「縁下さん。」
月島に恨みがましく見られた力は肩をすくめた。