第36章 【蛍石(ほたるいし】
とある昼休み、美沙は1人で屋上にいた。谷地が清水に呼ばれて行ってしまったからである。1人で弁当を食し、その後ぼおっとしていると月島と山口がやってくる。
「お、月島、山口、お疲れさん。」
「美沙さん、お疲れー。」
「相変わらずあんたの喋りはどうにかなんないの、おっさんみたい。」
「どうも照れが勝ってもてやな、堪忍して。」
「めんどくさ。」
「毎度えらい言われようやな。」
妙な気配でも感じたのか山口がまあまあと間に入る。が、特に揉めることはなくしばらく3人は沈黙した。
「えと、」
沈黙を破ったのは珍しく美沙の方からだった。
「あの、月島て下の名前なんやったっけ。」
「いきなり何なの。」
「いや、ど忘れしてもて。」
おずおずと呟く美沙、聞いたらあかんかったやろかと少し不安になる。
「ツッキーはケイだよ、蛍(ほたる)ってかいてケイ。」
「山口うるさい。」
「ごめん、ツッキー。」
「Flouriteか。」
親友同士のいつものやり取りの直後に美沙はうっかりいつも義兄などにやるノリで言ってしまい、月島は引きつった顔をした。
「アンタ馬鹿なの、毎度毎度どういう頭してんの。」
「ごめん、ふと浮かんでもて。」
「え、なになに、どういうこと。」
すぐわからなかった山口が2人を交互に見て声を上げる。
「蛍石(ほたるいし)。」
「へえ、そんな石があるんだ。」
「出てくる場所によって色んな色があって綺麗、らしいで。」
「そうなんだ。」
月島と美沙に解説された山口は素直に感心するが、当の月島は面倒臭そうに言う。
「まったくやめてよね、だからアンタは半分ボケなんだよ。」
「ごめんて、せやからそない怒らんといて。」
「縁下さんも縁下さんだよ、こんな訳わかんないこと垂れ流す奴放置してどんだけ甘やかしてる訳。」
「あの、兄さんは悪く言わんといたげて。」
「あと、僕怒ってる訳じゃないんだけど。」
「山口、つまり私はどない解釈したらええん。」
助けを求める美沙に山口はニッと笑って言った。
「ツッキーは照れてるんだよ。」
「山口うるさい。何かめんどくさくなってきた、僕やっぱ教室戻る。」
「ああっ、ツッキー。」
月島はとっとと行ってしまい、後には美沙と山口が残された。