第35章 【赤葦襲来 終幕】
抱っこされてしまった美沙が赤葦さんおるでと言いたげに片手で力の部屋のドアを指差すが力はスルーする。相変わらず細っこい義妹の体つき、小さな息遣い、胸にこみ上げるのはやはり愛おしさだ。お手洗いに行くと言っていた義妹をそうやってしばし引き止め、やがて力は義妹を解放した。
「ほな。」
「うん、おやすみ。」
力が部屋に戻ると赤葦がじーっと見つめていた。
「な、何。」
「どんだけ。」
「いや、その、あいつ寝付き悪くてちょくちょく起きてきたりするから。」
「ふーん。」
赤葦は言った。
「ごちそうさまでした。」
「何でだよっ。」
思わず声を上げる力に赤葦はしかし片方の人差し指を口に当て、いつものポーカーフェイスでシーと言った。
「お静かに。」
力はうぐと唸った。
そして朝が来る。
「ほな赤葦さん、お気をつけて。」
「ああ、世話になったね。」
「元気で。梟谷の皆さんにもよろしく。」
「ありがとう、縁下君。」
駅の改札前、見送りに来た縁下兄妹と赤葦は列車の時間が来るまで言葉を交わす。
「本当に楽しかったよ。」
赤葦は微笑んだ。
「そりゃ良かった。」
「色々初めての経験したし、君ら兄妹の面白いくらいべったりなとこも見せてもらったし。」
「最後まで勘弁してくれよっ。」
「私別に面白ないしっ。」
「美沙、それは誰も納得しないよ。」
「兄さんっ、ノーフォローなんっ。」
「流石に事実はフォロー出来ないから。」
「そんなん言わんとー。」
「はいはい落ち着いて、違うモードがはみ出てるぞ。」
「はいはい俺はもうお腹いっぱいだから。」
「別にいちゃついてないってっ。」
阿呆なことを言っている間に時間が迫る。
「じゃあ、今度こそ行くね。」
「うん、また。」
「無事帰れたら連絡する。」
「ああ。」
「ほなさよなら。」
赤葦は縁下兄妹に背を向けて改札を通る。赤葦の姿が見えなくなる頃に列車がホームに着いた音がした。
「無事、乗りはったやんな。」
「赤葦君なら大丈夫だよ。じゃあ俺らも行こうか、美沙。」
「うん。」
赤葦の姿が見えなくなるまで手を振っていた兄妹はそっと手を繋ぎ、家路に着く。コンビニの前を通った時に力は言った。