第35章 【赤葦襲来 終幕】
「からかうもなにもそう思ってるんだろう。」
「あああのその違うとは言わないけどさ。」
力はドギマギして頭から布団をかぶった。やめてほしいものだと思う。赤葦はそんな力の方を見ながら枕元のスマホをスリープモードから復帰させて写真ビューアのアプリを操作しながら言った。
「合宿の時言ってたよな。」
「ん。」
「初めて美沙さんに会った時、笑った時が可愛かったって。」
「あ、ああ。」
「ここにしばらくいて何となくわかった。あんまり顔つき変わんないあの子が表情に出るくらい笑うってのは大きな事で縁下君にとってはそれが大切なんだなって。」
「そう、なのかな。あまり難しく考えてなくて。」
言う力にそうだろうね、と赤葦は呟きスマホをまたスリープモードに戻す。
「ああ、でも」
力は呟いた。
「死にたくないからうちに来たって子が笑えないなんてそんな馬鹿な話ないだろ。」
「あの子そんな事言ったのか。」
「最初会った時に。」
「怖いな。」
赤葦のつぶやきに力はガバッと身を起こした。
「美沙さんのことだからなーんも考えてないんだろうけど、何か脅迫っぽい。」
「どうして。」
まさかの意見に尋ねつつも力は何となく感づいていた。
「愛してくれなきゃ死にますって聞こえなくもない。」
「う。」
「縁下君がどう思ってるか知らないけど。」
少しだけ力は考えた。赤葦の言うこともわかる。でも、それでも、
「俺は脅されたなんて思ってない。」
力は答えた。
「へえ。」
「確かに言われた時は衝撃だったけど、俺は自分で美沙を泣かせたくないって思った。自分で決めたんだ。」
だけど、と力は苦笑する。
「なんかの拍子に泣いてたりするから辛いんだよな。」
赤葦は微笑む。
「縁下君がそう思ってるならいい。」
「赤葦君。」
「失礼だけど心配した。縁下君は真面目だから無理してんじゃないかって。」
「まさか。」
力は笑った。
「それなら今頃君に過保護って言われる事もなかったよ。」
「なるほど。さて、そうなると一線超えてる辺りやっぱりあわよくばと思ってるのかと考える訳だけど。」
「出来るのかな。」
「調べもしてないのか。」
「もしダメだった時のショックに耐えられる自信がまだない。」
「仕方ないな。」
赤葦がニヤリとする。