第35章 【赤葦襲来 終幕】
赤葦京治が随分後になって語ったところによると、彼が縁下家に滞在した短い日々は何だか不思議な夢を見ているような心持ちだったという。
「とにもかくにもね、」
赤葦は言う。
「あの兄妹といると小さいけど俺の知らない世界がボコボコ出てくるんですよ。何か取り留めのないゆるい夢を見続けてる感じだった。」
確かに取り留めのない時間だったかもしれない。縁下力と美沙の義兄妹と赤葦はとりあえず遊べる時は遊んだし、水族館以外にも外へ出かけた。
「縁下君、つまりこれは。」
「マグリットやエッシャーが来るってんなら外せないだろ。」
「いや、そうじゃなくて。」
「こいつ美術鑑賞もわりと好きなんだよ。」
「渋いな。電子の世界だけじゃなかったのか。」
「電子機器ないのにアナログでこんだけの世界を描けるって素晴らしいやないですか、赤葦さん。」
「まあわからなくもない。」
別の時にはまさかのザリガニ釣りに行った。
「高校生がザリガニ釣り。」
「深く考えない方がいいよ、赤葦君。」
「しかも何で美沙さん。」
「誘っても他に来る女子がいないんだって。」
「まぁそうだろうな、普通は。じゃ縁下君は何で。」
「西谷と日向にうちの美沙を任せられない。」
「やっぱり保護者じゃないか。」
「おいっ、力っ、梟谷の奴っ、何ゴチョゴチョやってんだよっ。」
「ノヤっさん、でかいのきましたよっ。」
「おっしゃー。」
「私も釣れたー。で、やっぱりアメザリやねぇ。」
「とりあえずお前ら間違っても食うなよ、あと、くれぐれも約1名はいらない情報を流さない事。」
「何の情報を流すんだ。」
「おいっ、お前も見ろよ、すっげー大物だぞっ。」
「ごめん西谷君、俺の方に持ってこないで。」
はたまた縁下家の庭で赤葦が踊る縁下兄妹をスマホで撮ろうとする一幕もあった。
「兄さん、やっぱり赤葦さんの目つきがプロい件。」
「気のせいだと思いたかったんだけど。」
「兄妹揃ってブツブツ言わない、はいそこに立って。」
「あの赤葦君。」
「何。」
「何じゃなくてさ。」
「私と兄さんの踊ってみた動画撮ってどないしはるんです。」
「思い出作り。」
「兄さん、この人疑問形で絶対柄にもないこと言うてはる。」
「アハハ。」
「その冷や汗は何かな、縁下君。」