第34章 【赤葦襲来 第五幕】
「美沙さんはバレーボールしないの。」
その日公園で力と一緒にバレーボールでパスをしあう赤葦に美沙は尋ねられた。義兄とその友人の姿を眺めながらベンチに座っていた美沙は答える。
「私は運動からきしやから。」
そうだな、と義兄の力も言う。
「俺も強制するつもりはないし。」
ポンッとボールを打つ音が響く。
「ま、それもそうだ。」
赤葦が言ってまた力にトスを上げる。しばらくそうやって義兄と赤葦はバレーボールを打ち合い、美沙はぼんやりと往復するボールを眺める。勉強も運動もバランスよく熟す義兄に対し、自分は運動はほぼ全滅、勉強も理数系と社会系は苦手で特に理数系は赤点回避ギリギリも散見される。よくぞ義父母が我慢しているものだ。さりげにブラコンだと言われる美沙だが実際そういうところは義兄の力に対するコンプレックスになっているかもしれない。
「もしかして地雷だった。」
力が打ち返してきたボールをまた返す赤葦にふいに聞かれて美沙は動揺した。
「ななななな何で。」
「ちょっとムスッとしてたろ。」
はたで聞いている力が困ったような笑顔を浮かべている。
「私は別に。それに兄さんや赤葦さん達を全否定しとる訳やないです。」
「そんな事は俺でもわかるよ。」
「ごめんなさい。」
「謝るこたないよ。縁下君、ままコさんはあれかコンプレックスの塊か。」
「赤葦君っ。」
「ふぎゃああああっ。」
美沙はたまりかねてベンチからとびあがり、ボールを打ち合っていないのをいいことに義兄の後ろに隠れる。
「ううう、兄さーん。」
「よしよし美沙、落ち着きな。」
義兄が美沙の頭を撫でながら言うが美沙としては落ち着けない。
「今のはお兄さんの後ろに隠れるほどの事態だったのか。」
「あー、同じような事言われた事があってさ。」
「月島語で言われたのかい。」
「ちゃうしっ。」
「赤葦君、月島にバレたら俺にまで波及するからほんと勘弁して。」
「まあまあ。」
「成田先輩に言われた。」
「誰だっけ。」
「8番のミドルブロッカーの人。」
「番号もポジションも言えるのか。」
「教えたら覚えちゃって。」
「いい子だな。それにひきかえ、」
「まあまあ、赤葦君。」