第33章 【赤葦襲来 第四幕】
そんなこんなで水族館を出た3人だが、美沙が至極ご満悦だった。
「やー、まさか噂のチンアナゴも見れるとは思わんかったわー。」
「噂ってなんだい。」
「ああ、気にしないで赤葦君。どうせまた動画サイトの見過ぎだから。」
「一体美沙さんが住み着いてる先は何が流行ってるんだ。」
「俺が聞きたい。」
「まあ楽しそうで大いに結構な事だけど。」
ここで赤葦はあ、と呟く。
「ちょっとこの辺で写真撮っていいかい。」
「俺はいいけど。」
「私もかまへんですけど。」
「じゃあ2人共、そこの壁の前に立って。」
「ええっ、俺らを撮るのっ。」
「いやあの赤葦さん、何でまた私ら兄妹を撮るんです。」
「気まぐれ。何となく縁下兄妹のアップデート情報を残そうかなって。」
「イミフ(意味不明)すぐるっ。」
「それに撮ってどうするの。」
「黒尾さんに流そうかな。」
兄妹は揃って叫んだ。
「絶対ヤダっ(いややっ)」
「むしろそのシンクロぶりを土産話にするか。」
赤葦はニヤッと笑い、美沙は顔を赤くして赤葦に特攻しかねない勢い、力はそんな美沙の首根っこを掴んで何とか抑える。
「はいはい、いいからそこに立って。」
「兄さん、何か赤葦さんの目がプロい気がする。」
「それは流石に気のせいじゃないか。」
「あ、そうや赤葦さん。後で兄さんと一緒のとこ私撮りましょか。」
「ああ、頼むよ。」
最終的には力が近くの通行人に頼み、3人一緒の写真も撮った。
更に帰りの電車内のことである。
「美沙さん、疲れたみたいだな。」
力にもたれてスースーと寝息を立てる美沙を見て赤葦が言う。
「普段あまり外出ないわりにはしゃいでたから。」
力は呟く。やはり美沙の手は握ったままだ。
「いいんじゃないか、俺も結構楽しんだ。」
「そりゃ良かった。」
力はホッとし2人はしばし沈黙する。他の話し声が耳についた。斜め向かいのドアの前に立っている似た年頃の女子、4人ほどがこちらをチラチラ見ている。赤葦の整った容姿が目を引いたのか、あの人何めっちゃカッコいいイケメンじゃんなどと話していて、声を潜めているつもりがあまりうまくいっていない様子だ。赤葦君はそりゃ人目をひくよなとしか力は思わなかったが、残念ながら彼女らは力が関心を持たざるを得ない事を口にした。