第32章 【赤葦襲来 第三幕】
「これは。」
「フリーで配布されてるブラウザです。」
「これは。」
「これもフリーのお絵描きのソフトです。一から描くってより加工に強いです、印刷には弱いです。」
「じゃあこれは。」
「動画を編集するやつです。」
「で、これは。」
「図形描くのに使うソフトです。何気に文字を合成するのにも使えます。」
「それじゃあこれは。」
「入力した文字を合成音声で読み上げてくれるソフトです。」
「で、こんなに色々入れてる君は何者なの。」
「ただのオタクな高1です。」
「と、本人は言ってるんだけど、お兄さんの見解は。」
赤葦に話を振られた縁下力はハハと困った顔で笑った。
言うまでもないとは思うが念のため解説しておくとここは縁下美沙の部屋である。ただいま縁下家に来ている赤葦京治が力より前々から聞いているオタクな義妹についてどれほどのものか知りたがった為、兄の力と一緒に美沙の部屋を訪れてそのパソコンに入っているものを見せてもらった訳だがどうやら赤葦としては予想以上の状況だったらしい。
「絶対普通じゃないな。」
「だろうな。美沙さんの自称普通とか自称ただのとかは何基準。」
「オンラインの猛者基準だよ。」
力が苦笑しながら答えるが美沙はキョトンとしている。これだからこいつは半分ボケと言われるのであるが。
「こいつ、オンラインだけで繋がってるのが絵が上手いとかリアルで造形うまいとかそれこそパソコン分解して組み立て直し出来るとか結構レベル高い人多いんだよ。」
「確かにそっち基準で見たら普通以下なのかもしれないけど。」
「比べる基準が間違ってる。」
「そうだな。」
「うそん。」
「ホンマです。美沙、諦めな。」
義兄から関西弁に合わせてまで言われてしまい美沙はううう、と唸る。
「で、」
赤葦は気になったことを口にする。
「文字を読み上げてくれるってこれ、どんなの。」
「こんなのです。」
美沙は言ってソフトを起動、文字入力のフィールドに枠乙(わくおつ)と入れて、再生してみる。慣れない者が聞いたら落ち着かないであろう合成音声がそれを読み上げた。