第31章 【赤葦襲来 第二幕】
美沙は力のシャツを掴んでぐいぐい引っ張るが例によって非力な動画投稿者の力ではビクともしない。
「いいだろ別にお前だって自己紹介の度にただの動画投稿者ですって言ってるじゃないか。」
「それとこれとは別やんっ。」
「で、妹さんはどっちで呼んだらいいの。」
「兄さん、こちら様はボケ担当でいらっしゃるん。」
「違うと思うけどお前に言われちゃどうしようもないな。」
「とりあえずは美沙でいいです。ほんで兄さん、ボソッと聞き捨てならんこと言わんといて。」
「月島にも言われる半分ボケが言えることかい。」
「兄さんの意地悪っ。この人いっつもこんななんですよ。」
「ふーん。」
赤葦は気のないように聞こえる返事をしたが実のところ縁下美沙のペースを掴みかねていた。義兄の力と話していたかと思うと自分の方に話を振り、自分が発した内容について言及したかと思えば今みたいに力がボソッと言った事を聞き逃さない。随分とせわしないことである。
「縁下君、いつもこのペースに付き合ってるの。」
「ああ、まぁ。」
「よくやるな。」
「赤葦君ならすぐ慣れるよ。木兎さんの相手出来るくらいだし。」
「兄さん、私を一体何やと。」
「何だろうな。」
「またごまかしたっ。何でも胡麻で味付けしようったってそーはいかんでっ。」
「うまいこと言ったつもりだろうけどイマイチ。」
「ううー。」
「とまぁ、美沙が来てからこっちこれくらいのやりとりはいつものことかな。」
「やるな。」
赤葦はある意味感心すると思った。自分だったら義理の妹が出来てしかもこんだけ濃いキャラの相手なぞ出来るだろうか。
「ああ、そうだ忘れてた。」
赤葦はふと思い出した。
「俺別に関西弁構わないから。」
「あ、う。」
「話しにくいでしょ。」
「あ、ありがとうございます。」
「ごめん赤葦君、助かった。うっかりしてたよ。」
「あ、お母さん呼んではる。私行ってくるわ。」
「頼むよ、美沙。」
美沙はパタパタと力の部屋を出て行った。