第31章 【赤葦襲来 第二幕】
「下駄。」
赤葦が疑問形で呟いた。確かに向こうからカランコロンという音がする。
「今時珍しいな。」
「下駄って、あ。」
力はもしかして、と思うが確証がない。
「しかも何か歌ってる。」
赤葦の言葉に力も耳を傾けてみる。少女の声だ。
「あのさ、」
更に赤葦が言った。
「タイムスリップした先で歯並びがリアス式海岸て言われたってこっちでそんな歌流行ってんの。」
ああもう確かめるまでもないなと力は思った。向こう側から下駄を鳴らして電波な歌を歌いながら義妹の美沙が姿を現した。
「あ、兄さん、おかえり。と、とと。」
一緒にいた赤葦の姿に気づき美沙は途端に人見知りが発動したのか、顔を赤くしてあうあうと慌て始める。
「初めまして、美沙さん。赤葦京治です。それともままコさん、かな。」
「ふぎゃああああっ」
美沙が叫び、途端に赤葦が向こうを向いて吹き出した。
「こら美沙、ちゃんと挨拶しな。あと叫ばない、ご近所迷惑だよ。」
しかしいきなり初対面でハンネ呼びされた美沙はかなりパニックの模様で力の言葉が耳に入っていない。
「ああ、こりゃ駄目だ。ごめん赤葦君、とりあえず上がって。ほら、美沙も。」
「ホントにふぎゃあって言うんだな。」
「今気にするとこそこなの。」
初っ端からこれで大丈夫かと力はやや不安になった。
そうやって赤葦は縁下家に上がり、力と美沙の両親に挨拶をしてとりあえず一旦は落ち着いた。只今3人は力の部屋にいる。
「先程は大変失礼しました。」
やっとパニックから脱した美沙が赤葦に挨拶をした。
「縁下美沙です、烏野の1年でその辺にいるただの動画投稿者です。兄がお世話になってます。」
「ああ、よろしく。でも初めて会った気はしないな。」
「と、おっしゃいますと」
「合宿先でお兄さんから話聞いてたし写真も見せてもらったし、スマホからライブ配信してたのも一緒に聞いてたし。」
「も、もしや兄さんが言ってた一緒に見てた他校の人って。」
「俺。」
「ふぎゃあああああっ。」
声を上げて美沙は義兄の力をじろっと睨む。
「兄さん、ちょお、どゆこと。」
力は珍しくそっぽを向いてごまかす。
「ごまかしなーっ、めっちゃ色々バレてるやないのっ。」