第29章 【ハミチキとかりゃあげ君】
その時美沙は明らかに兄を語るような目つきではなくもっと深く愛する者を語るような目つきになっていたが本人は気づいていない。
「兄貴。」
「バレー部におりましてですね。」
「バレーやってんのか。」
「はい。」
「強いのか。」
「私は技術的な事はようわからんのでそっちは何とも。ただそれ以外で言うたら強いと思(おも)てます。本人はあまり自信ないみたいやけど。多分ね、次の主将はうちの兄さんやと思うんですよ。」
京谷はふん、とだけ言った。満足いく答えやなかったんやろな、と美沙は思う。
「あの、」
睨まれるかもしれないと思いつつ美沙は聞いてみた。
「そないなこと聞く言う事は京谷さん、もしかしてバレー部。」
「うるせえ。」
図星であることが半分ボケの美沙でもわかった。それにこの反応からして何か訳がありそうだ。自分の事はしゃべる美沙だが人様の事情にこれ以上首を突っ込むのは趣味ではない。当の京谷は美沙から視線をそらし、片手のハミチキの口をつけていないあたりを千切っていた。美沙はぼおっとその様子を見ていたのだがその千切ったハミチキが目の前に差し出されたので驚いた。
「やる。」
「あ、ありがとうございます。」
美沙はおずおずと受け取り、早速口に入れた。
「あ、これもおいしーですね。」
好みのものを与えられると無自覚に顔が緩む美沙、京谷がガン見しているが食べるのに夢中でそっちには気づかない。
「今度ハミマさんにも行ってみよ、兄さんにはバレんように。」
「何で兄貴がカンケーあんだ。」
「運動してないのにあまり油もん食べるなって怒られる。」
「親かよ。」
「過保護とは言われてます。」
京谷は変な野郎だと呟き、やや減ったハミチキにかじりつく。美沙も残ったかりゃあげ君を消費にかかり、しばしそのベンチでは不良っぽい少年と地味で真面目系に見える少女が鶏肉の揚げ物を食しながら静かに会話しているという不思議な光景が展開されていた。
そうして2人はお互い食べ終わるまでちょこちょこ言葉を交わして過ごした。
「ご馳走様、あー美味しかった。」
美沙は満足して呟く。
「やっぱり変な女。」
「なんでやねんっ。」
「ちげーつもりかよ。」
「まぁそない言われると否定はでけへんけど。」