第29章 【ハミチキとかりゃあげ君】
「うまい。」
「良かったですね。」
「さんきゅ。」
「どういたしまして。」
美沙は言って残りのかりゃあげ君を消費しようとする。少年はまだ用があるのか立ち去ろうとしない。どころか、
「変な女。」
「いきなりそれかっ。」
美沙は思わず突っ込み、しかし少年は更に続ける。
「あと気取った喋り方してんじゃねーよ。」
美沙はかなりムッとした。相手が年上か同い年か年下かよくわからないのでとりあえず丁寧にしたつもりなのにえらい言われようである。しかしまずは落ち着こうと考えた。喋り方については過去に何度か初対面で言われた事がある。
「ようわからんけど、」
美沙は本来の言葉に切り替えてみた。
「これやったらよろしいか。」
また少年の目が少し見開かれる。当たりだったようだ。
「関西弁。」
「そうです。」
「最初っからそうしろ。」
「だって初対面で関西弁て嫌がる人もおるもん。」
「知るか。」
「いやいやいや、ちょっとくらいは考慮しましょて。」
「くだんねえ。」
やれやれと美沙は思った。どうやら人は悪くないけど難儀なタイプのようだ。おまけに話も続かないしもうこの人どっか行くかなと思った。それでも少年は立ち去らない。なんやこの人どないしはったんたやと美沙は思う。110番まで行かなくても家に電話した方がいいのだろうか。何だかよくわからず美沙はまた首を傾げてみた。
「やっぱり変な女。」
「何でやねんっ。」
美沙はとうとういつもの平手突っ込みをしてしまった。遠回しに関西弁オッケーを出してきた相手だ、差し支えはないだろうと若干無理矢理なことを思う。
「何となく普通じゃねぇ。」
「いやあのハミチキ片手にいきなり人の前に立ってくる人が果たして普通なんかどうか。」
「あ。」
少年は睨むが美沙は怖くなかった。脳裏に義兄の力とチームメイトである田中龍之介が浮かんだのである。
「だっていきなり前に立たれてかりゃあげ君がどうの言われたら何かて思いますよ普通。んで普通の人やったら逃げる、って、あっ。」
美沙は気づいてしょぼーんとなった。