第29章 【ハミチキとかりゃあげ君】
縁下美沙は珍しく買い食いをした。ローンソの新!かりゃあげ君である。美沙が自分でコンビニ行って買い食いなど本当に珍しい。まだ姓が薬丸だった頃は祖母が買い食いを禁止していた。行儀という点で祖母が間違っていない事は流石の半分ボケも理解していて亡くなるまでは祖母に従っており、縁下になってからもたまたま誰かに奢ってもらった時以外は遵守していたのだ。ならばいつもどおり家に持って帰って食えばいいという話だが、今回の場合は訳があった。
このような味の濃い揚げものを持って帰って家で食すると間違いなく部屋に匂いが残る訳で祖母に替わって過保護である義兄の力が部活から帰ってきた時にまた運動しない癖に揚げものを食べてと説教してくる事が予想されるからである。力の言い分はこれまたもっともな話であるが美沙だってたまには義兄の言うことに逆らいたい事もある。
という訳でローンソから出た美沙は我知らず顔を緩ませながら店から程近くのベンチでかりゃあげ君を食していた。
「あつつ。」
熱気に気を付けながらそっとかじってみる。
「ん、おいしー。」
1人にっこり笑ってかりゃあげ君を食する美沙の姿は烏野の男子排球部関係者が見たら面白がるかもしれない。そうやって美沙はもぎゅもぎゅとかりゃあげ君を食していたのだが
「むぐ。」
急に目の前が影になって何やろと思ったら制服を着た少年が立っていた。片手にはハミマのチキン、着ているズボンの柄に覚えがある、青葉城西だ。バレー部の奴だろうか。だが前に青葉城西の連中と遭遇した時こんな明らかに髪を染めていて目つきの悪い奴はいなかった。違うかもしれない。とりあえず美沙は口に物が入っていたので首を傾げて何かご用ですかといった様子を見せてみた。
「かりゃあげ君。」
ボソリと少年が呟く。一応は通じたらしい。
「うまいか。」
「私は好みですけど。」
美沙は答えるが少年は何も言わない。
「えと。」
困ってしまった美沙は半分ダメ元の行動に出た。
「良かったらお一つどうぞ。」
まだ手をつけていないかりゃあげ君の一つを若干無理矢理に楊枝の逆側で刺して少年に差し出す。少年は目を見開き少し驚いた様子を見せたが、すぐに差し出されたかりゃあげ君にかじりついた。