第27章 【痛みを知る者】
「せやけど谷地さんが1番怖かったし嫌やったやろ。それわかってる奴があそこで逃げるてありえへんやん。」
美沙の口調は完全に自分は当たり前のことをしただけだといった感じである。
「でも美沙さんの事、よく思ってない人がまた縁下かとか言ったりとか」
「知らんがな。」
机に突っ伏して横向きに谷地を見ながら美沙は一蹴した。
「そんな人は何したって言うもん。少なくとも今回は谷地さん無事やし私悪ないしええやん、そんなん。後はあれかな、向こうさんもどっかで落ち着いてくれたらええんやけどな。」
絆創膏の貼りついた顔で微笑む美沙、それは谷地の奥底からグググとこみ上げてくる何かを与えた。
「美沙さんっ。」
「はっ、はひっ。」
勢い余って谷地は席から立ち上がり、美沙はそれにビビって体を起こす。
「もし美沙さんが何か辛い事あったら絶対言ってねっ。」
「え、あ、うん。」
「私、出来ることはやるからっ。」
「あう、毎度ありがとう。」
谷地は思う。縁下美沙は何気に強くて、それはきっと痛みを知る故だろうと。
次章に続く