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【ハイキュー】エンノシタイモウト第二部

第27章 【痛みを知る者】


義妹の言い方は淡々としていて決して哀れみを誘うような何かはなかったがしかし力は目を見開き、思わずガバッと義妹に抱きついていた。美沙はふぎゃあっと小さく叫び顔を赤くするが力はそれに気づかない。
それだけ淡々と語られたその言葉は力に深く突き刺さったのだ。それはおそらく縁下家に来るまでの間、美沙が実際に見てきた事、実際に体験した事だ。両親がおらず祖母に育てられたはいいが人見知りで世間知らずでしかし一方でそのままの自分を貫くその様は意地の悪い奴らから見れば格好の材料だっただろう。ひょっとしたら親同士の無責任な噂を真に受けていた奴もいたかもしれない。
美沙はこちらに来るまで本当に友人がいなかったというから周りは自分が同じ立場になるのを恐れて何も出来なかったのだろう。先生もおそらく面倒がってろくに向き合おうとしなかったのだろう。祖母が亡くなってからだって一応いるはずの美沙の血縁は誰も一族から浮いていたばあさんのどこか普通でない孫に手を差し伸べることはしなかった。
おかげで自分は労せずして愛すべきものを手に入れた訳だが、でも、と力は思う。
もし美沙が自分の妹でしかも兄妹の一線を越えてしまうくらい愛せる存在でなかったら自分だってその周りと同じ事をしていたのではないか。うっかりそう考えた途端背筋が凍った。考えただけで恐ろしかった。

「兄さん」

黙りこくったまま自分をきつく抱きしめる義兄に美沙が不思議そうに呼びかける。

「美沙」

力は呟いた。そんなつもりはなかったのに視界が歪んでいた。

「お前、よく生きてたな。」
「急にどないしたん、いつも言うてるやないの、私死にたないもん。」
「死にたいって思った事はないのか。」
「ない事ないよそら。」

美沙はやはりあっさりと答えた。

「せやけど結局本能的って言うんかな、怖くなってよう死なんかったし、私がおらんくなったら間違いなくばあちゃん悲しむし、それに、それにやで兄さん。」

ヒョロヒョロの両腕を伸ばして力の背中に回し、美沙は付け加えた。
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