第27章 【痛みを知る者】
「お前はそれでいいよ。」
だから俺は、と力は思う。だから俺はお前を離したくないしお前から離れたくないんだ。
「それで思い出した。」
美沙がむくっと起き上がった。起き方が悪かったのか湿布を貼った肘を見てあででで、と小さく痛みを訴える。
「谷地さんに私は大丈夫ってメッセ送っとこ。後は及川さんにもお礼やね。」
「ああ、そうだな。」
力が言い終わらないうちに義妹は枕元に置いたスマホを取り上げ、システムの漢字変換が間に合うのか怪しいレベルでフリック入力を始めた。
「そういえばさ」
力は呟いた。義妹が入力しながらでも反応出来ることを知っているからこそである。
「うん。」
「お前よくあの牛島さんと初対面で話せたな。」
「うーん、慣れたんかなぁ。」
「慣れたって。」
「ほんのすこーしやけど人に。だって私こっち来てから急に色んな人と出くわすようになってそれも自分よりでかい人多くて、って言うてるそばから誰や、リエたんか犬岡君か。」
谷地や及川へのメッセージを入力最中に着信があったようだ。
「リエたんや。」
「ああ、そういや合宿の時に灰羽君からお前がひどいってクレームきたんだけど。」
「あれはリエたんが悪い、仮にも私に向かってエースになってお前の兄ちゃんもぶっ倒すかんなって言うてくるからや。」
「ああ、なるほど。」
確かに烏野で力の妹である美沙に言うには不適切である。が、力はふと思う。
「お前もしかして灰羽君に直接リエたんとか何とか言ってないだろうな。」
「収拾つかんくなってきた時は言うてる。」
「だから美沙がひどいって言ってきたのか。」
ため息をつく力の傍で美沙は高速でメッセージを入力、送信を完了したようだ。珍しくスマホをすぐ手から離して美沙はまたボスッと仰向けになる。
「とりあえず疲れた。変な奴はともかく先生はまた面倒なことしよってみたいな扱いしてくれるし。」
力の胸が痛む。
「母さんもその事で怒ってたけど何でそうなるんだろうな、美沙が悪い事したんじゃないのに。」
「そんなもんやで、兄さん。」
美沙は言った。
「弱い者を黙らせる方が楽やから、大抵の人はそっちにいってまう。子供も大人も。」