第27章 【痛みを知る者】
及川が乱入するわ牛島が噛んでくるわ訳のわからない事になったがとりあえず縁下力と縁下美沙の義兄妹は一緒に帰宅した。絆創膏や湿布をつけて帰ってきた娘を見て当然母は激しく心配し、美沙は隠さず事を報告した。それでわかったのは学校からも連絡があったらしいが何とも言い難い対応だったようだ。その為か母は噛んで含めるように美沙に言った、自分達は家族で味方であると、遠慮することはないと。
母と話を終えてまた兄妹は親の目を盗んで一緒にいた。今日は美沙の部屋である。
「兄さん、怒ってる。」
美沙がポツリと尋ね、力は驚いた。
「どうして。」
「言いつけ破ったから、自分を大事にせんとこの様(ざま)やから。」
また随分なことを気にしたものだ、力はベッドに寝っころがり天井を見つめたままの義妹の頭をそっと撫でる。
「谷地さんから聞いたよ、穏便に済まそうとしたんだろ。そこまでしてこれなんだから仕方ないよ。」
「うん。」
美沙は力なく言って目を閉じる。
「むしろ俺は」
力は言った。
「肝心な時に自分がいなくてお前がその有様だからそっちのがショック。」
「それこそ無理やん、何があるかなんて誰にもわからへんよ。」
「まあそうなんだけど。」
「ああそういや谷地さんは。」
こんな時でも友達を心配するとは美沙らしいと力は思う。
「泣きながら自分のせいでお前が怪我したって俺に言いに来たけどしばらくしたら落ち着いたよ。」
「そうか、良かった。」
関西弁イントネーションで言って美沙はふぅと息を吐く。
「逆にいらんことしたかな。」
「どうして。」
「谷地さんにいらん心配かけたよーな。」
グチャグチャ考え出したらしき義妹に力は静かに言った。
「よく考えな。助けるのと見捨てるのと、お前が本当に後悔するのはどっち。」
美沙はしばし沈黙した。おそらく考えているのだろう。やがて目を開けて美沙は言った。
「見捨てる方が私はきっと後悔するやろな。」
「どうして。」
「助けてもらわれへん辛さを知っとる奴が何もせえへんてそれ最悪やん。それにいっぺん逃げたらずっと逃げ続けなあかんくなる。少なくとも私はそういう奴やと思う。」
力はくすりと笑った。