第26章 【外伝 怪童と義兄妹】
「迎えに行くから及川さん達とそこで待ってて。」
「いやあの兄さん」
「待ってな。」
「は、はいいいいいいっ。」
縁下美沙が叫んだところで通話は終了した。
「一ついいか。」
牛島は思わず呟いた。
「兄はお前の今日の状態を差し引いたとしても本当に過保護だな。」
「いやあのその」
「だよねー、ウシワカちゃんもそう思うよねー。」
「お前と意見が同じというのはぞっとしないがな。」
縁下美沙はうううと唸って俯いた。
しばらくして縁下力は本当に迎えにきた。牛島は先程写真で見たその顔を生で改めて見て、やはり見た目からは義理の妹をやたら過保護にするようには見えないと考える。
「すみません、うちの美沙がお世話になりまして。」
「いや、」
困ったように微笑みながら言う縁下力に牛島は呟く。
「なかなか個性的な妹だな。」
「よく言われます。でも俺が言うのもあれですが、いい子です。」
「兄妹揃って褒めあいか。」
「え。」
「良い兄だと。」
言われた縁下力は妹の方を見、妹の方はあからさまに目をそらす。
「美沙、お前ね。」
「私はホンマのことを言うただけやもん。」
「しょうがない奴だな。」
言って妹の頭を撫でる縁下力に牛島は何となく違和感を覚える。しかし何故違和感を覚えたのかわからない。向こうでは及川がニヤニヤ笑いを浮かべている。
「随分妹を大事にしていると聞いたが。」
縁下力はアハハと苦笑した。
「こいつどうかすると危なっかしいんで。」
「手のかかる妹ということか、それでも今みたいに迎えに来てまで保護するのは何故だ。お前にとってその妹の価値は何だ。」
残念ながら特に美人でもなく標準語を使った時の物言いは誤解を招きかねず、なんだかよくわからないが趣味も個性的な模様で理解しづらいこの奇妙な妹を過保護にする理由が牛島にはわからない。
「それもよく聞かれるんですが、」
気を悪くした風でもなく縁下力は答えた。
「こいつが何があってもそうそう逃げないとこです。」
「つまり。」
「あの、こいつが今このなりの訳は。」
「本人から聞いた。友人をかばった結果のようだが。」
ええ、と縁下力は肯定する。