第26章 【外伝 怪童と義兄妹】
「あっ、美沙ちゃんっ。」
どこかで聞いたノリの軽い声とバタバタした足音がする。途端に
「ふぎやあああああっ。」
縁下美沙が声を上げた。
「及川。」
美沙に後ろから抱きついた青葉城西の及川に牛島は引きつった顔で呟き、そして信じられない光景を見た。
「ちょっこらっ、ここお外っ。あと兄さん以外は抱っこ禁止っ。」
突然縁下美沙の言葉が切り替わった。おまけに顔を赤くして及川の頭をペシペシ叩いている。
「えー、何それー縁下君だけってずるいー。」
「何がずるいや当たり前やっ大体外でいきなり抱きつく人があるかいなっ。」
「っていうかさ、」
及川は後ろから美沙に抱きついたままふと真面目な顔をする。
「なんで怪我してるの。また階段から落とされた。」
またとか階段から落とされたとか、随分不穏な話だと牛島は思う。この美沙とやらは一体学校でどういった状況になっているのか。
「いや、男バレのマネの子が馬鹿タレに絡まれとったから助けに入ったら腹いせに突き飛ばされておまけに蹴られておかげで脛(すね)痛い。」
「何それ最低じゃんっ。縁下君それ知ってんの。」
「例によって先にマネの子から話いってると思う。」
完全に蚊帳の外である牛島は話を側で聞きつつもくだらんと思う。自分は興味本位で聞いたものの及川が心配したところで何か出来るでもなかろうに何故構うのか。しかし及川は真面目な顔で言い聞かせるように美沙に言う。
「そう。じゃあちゃんとお家帰るんだよ。」
「はい。」
「親御さんにも言うんだよ。」
「はい。」
「よし、いい子だね。にしてもホントひどいことするなぁ、可哀想に。」
「あの、心配してくれはるんはありがたいんですけど、どさくさに紛れて抱っこせんといてください。」
「ちぇっちぇっ。」
「もう、何でこんな時に限って岩泉さんがいてはらへんのやろ。」
阿呆らしくなった牛島はそのまま及川と美沙を置いて帰ろうとする。