第26章 【外伝 怪童と義兄妹】
「会ったばかりのやつに話していいことか。」
「私も亡くなった本当の親もばあちゃんも、今の両親も兄さんも悪い事した訳じゃないので。」
「その事で何かあったりしないのか。」
「兄と同じ縁下姓で学校も一緒なので変な勘ぐりされたり言いがかりつけられたりはあります。後はやんわり避けられているんですけどそれは名前変わる前からなんで今更ですね。」
「避けられるとは。」
「私はどっちかいうと変わり者に分類されますが、それを堂々と出しているのが奇異に映るようで。烏野の男バレのみんなは兄も含めて割とその辺寛容なんですけど。」
確かにと牛島は思った。関西弁云々以前に言動がどことなく変わっている。間違いなく当世風ではない。しかもそれに対して後ろめたく思っている様子がない。怪我をしていることについてだって聞けばあっさりと答え、起こったものは仕方がないと言った様子だ。悪い奴ではないのだろうがこのどこか開き直ったような発信方法が投げやり且(か)つ、つっけんどんに聞こえて、他には伝わりにくいのかもしれない。
「まあそういった訳です。ああ、すみません、くだらないことでお時間取らせて。」
「いや、こっちも別に急いではいない。」
それよりもう少しこいつを知りたいと牛島は思った。
「兄とは、仲が良いようだな。」
「お陰様で。寛大で良くできた人です。ただどうも私の事で過保護と言われまくってるのが困ったもので。」
「過保護。」
思わず牛島は反芻(はんすう)した。
「どんな奴だ。」
「こんな人です。」
言って縁下美沙は肩から提げている布のガジェットケースからスマホを取り出して操作を始める。程なく差し出されたスマホの画面を見た牛島はううむと唸った。一見穏やかで気が弱そうに見える七三分けの少年、確かに妹を大切にしそうな雰囲気ではあるが腕輪をつけるよう言いつけたり妹をして過保護と言われるような風には見えない。ついでにこんな選手など勿論牛島には心当たりがない。
「人は見かけによらないな。」
縁下美沙にスマホを返しながら牛島は呟き、美沙はよく言われますと言う。しばし沈黙する2人、やがて牛島がそろそろ行く、と言おうとした時だった。