第26章 【外伝 怪童と義兄妹】
絡まれた友達を助けて怪我を負い、しかし友達が無事ならいいと当たり前のように言ってのける奴ははたして只者なのか。ヒョロヒョロで地味な外見、ろくに目を合わさない癖に話す言葉からは信念のようなものを感じる。
「お前の兄は。」
「同じく烏野の男バレです。」
「誰だ。」
「背番号6番縁下力、ウィングスパイカーです。」
「エンノシタチカラ。」
牛島はもちろん心当たりがなく首をひねったが奇妙な存在は特に気を悪くした様子がない。
「まあそうなるでしょう、仕方がありません。」
「そもそもそれは本名なのか。」
「ガチでマジで本名です。」
「それでお前は。」
「妹の美沙です、1年でごく普通の動画投稿者です。よろしくお願いします。」
「動画投稿が普通なのかどうかは知らないが、俺は白鳥沢の牛島若利だ。」
「ああ、噂のウシワカさん。」
「その呼び方はやめろ。」
「ありゃしもたノリ悪い人やった、とりあえず文句は青葉城西の及川さんまでお願いします。」
ポロリと出た他所の言葉に牛島は怪訝に思うがそれより後半の言葉へ気が行った。
「及川を知っているのか。」
「ちと色々ありまして、今はお友達です。」
「奴め、余計なことを吹き込んで。」
「有名税と思われるのがよろしいかと。」
「お前はさっきからなかなか複雑な事を言うのだな。」
「日本語間違ってますか。」
「そうではない。」
牛島は少し面倒だと思いつつもこの縁下美沙と名乗った奇妙な存在に少し興味を持った。
「言葉といえばお前、出身は。」
「出身はこの辺です。ただ、育ててくれたばあちゃんが瀬戸内海の人だったらしくて関西弁がうつってます。」
「兄がいて親がいるのにおばあさんに育てられたというのは。」
牛島は混乱するが縁下美沙はしれっと説明した。
「私は養い子です。両親は既にいなくて育ててくれたばあちゃんも亡くして身寄りがなくなったんで縁下さんちの子になりました。なので前は違う名前でした。」
やはり奇妙な奴だと牛島は思った。