第26章 【外伝 怪童と義兄妹】
白鳥沢学園高等部3年にしてバレーボール部のキャプテンである牛島若利は部活を終えて帰路についている時に妙なものを見た。もの、は流石に失礼かもしれない。しかし牛島からすればそれは明らかに奇妙な存在だった。
牛島がそいつを奇妙だと思ったのには一応訳がある。まずそいつは女子だった。それだけなら普通なのだがそいつは怪我をしていた。片方の肘と片方の脛(すね)には湿布、口元と片眉の端あたりには絆創膏、牛島のよりずっと小さくて白い片手の甲にはミミズ腫れがある。見た目は地味で真面目そうで大人しく見える女子が何故そうなるのか牛島には皆目見当がつかない。奇妙であった。
その存在は更に奇妙なことに、片方の手首に緩めのブレスレットをしていて外れるのではないかと思っていたら案の定牛島の目の前でブレスレットが落ちた。これがきっかけだった。
「あ、すみません。ありがとうございます。」
奇妙な存在は言った。言葉が何となく聞きなれない気がすると牛島は思う。
「サイズが合わないのか。」
ブレスレットを拾って渡してやりながら牛島は奇妙な存在の手首を見つめる。体格が自分よりずっと小さいからかもしれないが細すぎると牛島は思う。何を食べてどうやって生きているのかとすら思った。この細い手首は折れたりすることがないのだろうか。
「へ。」
いきなり言われた奇妙な存在の方は気の抜けた聞き返しをしてきた。
「サイズが合うのを買うべきだろう。」
「いや、その」
奇妙な存在は口ごもった。
「兄がくれたんでむげにできなくて、あと、なるべくつけるようにって言いつけられてるんで。」
「何を言っている。」
まったくもって理屈が通っていない。言っている本人も薄々気が付いているようだが牛島は思わず尋ねていた。
「兄に言いつけられたからつけるというのは何だ。」
「そうしてほしいって望まれましたので。」
「望まれればするのか。」
「私の事なのでそうでなくてもしたとは思います。ただ後押しされたようなものです。」
「妙なことを言う兄だな。」
「ええと、その、」
奇妙な存在は目を合わせずに言った。そういえばこいつはさっきから牛島に目を合わせてる様子がない。
「私がそうしたいと思ったからいいんです。」
訳がわからないし埒(らち)もあかないと牛島は思い、別の質問をした。