第23章 【合宿 第六幕】
そうして力は就寝時刻が来るまでの長い時間、烏野の連中と一緒にとにもかくにも何か掴もうと必死になって熾烈を極める練習に食いついていた。
当の縁下美沙は義兄が留守の間、やはり内心寂しがりつつもそれはアカンと自分に言い聞かせながら過ごしていて、それを埋めるように投稿動画の作成に没頭していた。
そしてまた夜のことだ。力はまた寝床を抜け出し、廊下に出てスマホを取り出していた。メッセージアプリを呼び出して義妹へ無料音声通話をかける。3コールほどで義妹は出た。
「しもしも。」
やはりネタで応対する美沙である。
「美沙、お前ね。いつもそれか。」
「そろそろ新しいネタ仕入れなあかんかなぁ。」
「いやそれはそれで収拾つかないからやめて。」
電話の向こうで天然ボケぶりを発揮する美沙に力は苦笑する。
「谷地さんからチラと聞いたけど、ガリガリやってるんやね、練習。」
「うん、もう吐きそう。なんてな。」
「でも兄さんにしろ他の人にしろちゃんとやるんやから流石やね。私やったら逃げてまうかも。」
純粋に感心する美沙の言葉に力は胸が痛む。私やったら逃げてまうだなんてよく言うよ、お前は逆に逃げないからこそ俺はここまで依存してるのに。
「お前は逃げないだろ。」
「いやいやいや、私すぐ傷つく豆腐メンタルやから。」
確かに美沙は人見知りで繊細なところもあるが、果たして豆腐メンタルなどと言われるようなやわな奴だろうかと力は思う。学校でしばしば酷いことを言われ一度は階段から落とされても堂々と登校し、兄である自分の事を悪く言われた時には相手に向かっていくような奴が豆腐メンタルだなんて力には思えない。
「褒めてくれてありがとう、美沙。でもごめん。」
「え。」
義妹が戸惑った声を出す。
「俺、ずっとお前に隠してた事がある。」
「ど、どないしたん改まって。」
ますます困惑したような美沙の声、しかし力は言うなら今だと思った。
「俺、バレー部から逃げた事があるんだ。」
言った、とうとう言った。電話の向こうの美沙は沈黙している。やはり軽蔑されただろうかと力は落ち着かなくなるが何とか抑えて義妹の反応を辛抱強く待った。