第22章 【合宿 第五幕】
"トリートメント"
「髪のお手入れかって、もうええっ。」
"よくできました〜"
"8888888888"
"888888888888888"
「いや褒めても何もでえへんから、そして素直に喜ばれへん件。」
赤葦が首をかしげた。
「8がいっぱい流れてるあれ何。」
「パチパチって事らしい。つまり拍手。」
「オンラインに住み着いてる人ってしょうもないこと考えつくんだな。」
「赤葦君、それ俺ら兄妹に刺さるから勘弁して。」
しかし何だかんだ言いながら赤葦はままコこと縁下美沙の拙い喋りを面白がって力と一緒に聞き続け、ハンドルネームままコのライブ配信は一旦終了した。
「面白かったよ。」
そろそろ部屋に戻ろうとする段になって赤葦が言った。
「そうかい。」
力はスマホを仕舞いながら気を使ってくれてるのかなと思う。
「本当に。」
見透かしたように赤葦は言う。
「見てる分には面白かったよ、色んな世界があるんだな。」
「ははは。」
「それとまた一個わかった。」
力はえ、と怪訝に思い、赤葦は話を続けた。
「君にとっての妹さんの価値。」
「な、何を急に。」
赤葦は別に難しいこたないよ、と呟いた。
「君の事を弱くないって熱く語ってたろ。あの子の価値はそういう事を嘘偽りなく当たり前に言える事で、縁下君はそれに依存してるんだな。」
力は自嘲気味に微笑んだ。
「やっぱり赤葦君は鋭いな。でもどうしてそんなに俺ら兄妹を気にするの。特に美沙には会ったこともないしさっき声聞いたばかりだろ。」
「言ったはず、見た目に寄らず君が意外な事になってるから興味持った。」
「それだけ」
「それだけ。何を心配してるんだ、俺は妹さんを掻(か)っ攫(さら)ったりしないから。」
力は無意識にうぐ、と唸った。
「オンラインの連中にも言われてたけどそんなに心配なのか。」
「わかる奴にはわかるから。」
力は正直に言った。
「あいつリアルだとパッと見でわかんないから大抵の人は敬遠するんだけど、どうかするといい子で優しいんだってわかる人がいて、何回か持ってかれるんじゃないかって不安になったことがあって。」
赤葦はふーんと言った。
「逆に妹さんが君に対して同じ事思ってるって考えた事は。」
力は固まった。