第1章 どうしてこうなった
「坊っちゃんじゃあないですか。どうしたんです、こんな夜更けに。おっ…これはこれは、神崎組のお嬢もご一緒で。初めまして、でしたっけ」
そう言って笑いかけてくれるその男の人は、どっちかというと、裏の人というより一般人の方が近い見た目だ。
紺色の着物を着ていて、眼鏡をかけている。
髪は真っ黒で少しはねてる。
この人が、極道……??
まじまじと見ていると、男の人は照れ臭そうに頬を掻いた。
「お嬢、俺の顔に何かついてますかね?」
「えっ…、い、いえ!そういう訳じゃなくて…その、ご、ごめんなさい」
慌てて首を振って頭を下げる。
すると、予想外な事に悠真くんに頭上げろ、と言われた。
驚きが大きすぎて、間抜けな声をあげて悠真くんを見やる。
「簡単に頭下げんじゃねぇ。つか、茶番に付き合ってる暇はねぇんだよ」
「あ…うん、ごめん…」
悠真くんの右腕が目に入ってはっと我に返った。
何の為に私達は此処に来たのか、目的を忘れるところだった…。
悠真くんは男の人の元に歩み寄っていき、当たり前のように丸椅子に座る。
私も悠真くんの斜め後ろに立つ。
「おや、その腕…何があったんですか坊っちゃん」
「……こいつにやられた」
顎で私を指し示す悠真くん。
罪悪感に苛まれ、思わず俯いた。
しかし、男の人ーーいや、この人が源さんなんだろう。
源さんは、ほぉと感嘆の声を漏らす。
「いや、強いんですねお嬢。それにこの腕…折れているとは言え、随分と綺麗だ。これなら、治った後は丈夫になりますよ」
源さんは自身の横にある木製の棚から包帯やギプス等を取り出して、手際よく悠真くんの腕の処置を始める。
その処置が余りにも早くて鮮やかで正確で、思わず見とれてしまった。