第10章 加納
パタパタと廊下を軽く駆けてると声が聞こえた。
「ねぇ…何してくれてんの?」
(あれ…?この声は…)
それは、先程まで聞いた気がしたものだった。
「やるなら…上手くやってよ?」
(もしかして…
…加納先輩!?)
さっきまでの印象と違う声に戸惑い、自分の思い違いだろうと結論づけたが…
(…ま…まさかね…)
冷や汗を軽く拭い部室に戻ろうとした。
教室の忘れ物を取りに行った些細な出来事で終わる筈だった。
夢の携帯が鳴るまでは。
「?!」
廊下に携帯の着信音が鳴り響き、携帯を取り出したと同時にガラッと教室の戸が開かれた。
「…盗み聞きなんて…素敵な趣味ね…春川さん?」
冷たい眼差しで冷笑して見下ろす加納と目が合った。
ゾクッと背筋が凍り固まっていると、加納の後ろにいた前園が夢を見るなり怒りを表した顔で夢を睨んだ。そのまま夢に近付き、強引に夢の腕を掴んだ。
バンッと壁に叩きつけられる。
その拍子に持っていた携帯の通話ボタンを押してしまい、ぶつけた痛みで携帯を足下に落としてしまった。
「……っう………!」
「…あんた!あんたのせいで…!あんたさえ居なければっっ!!!!!!」
痛みに顔をしかめている夢に、興奮ぎみに前園は言葉を吐き出した。
「お前なんか…!もう二度と白河に近づけない様にしてやる………!!!」
そう叫ぶと夢の髪を掴んだ。
「いたっ…!」
(…………怖い!)
加納はただ黙ってその状況を眺めていた。
もう一人は急にヒステリックを起こした友人に驚き、ガクガクと全身で震えていた。