第4章 保健室での秘め事
「…なかった事に、したいのか?」
「その方が、お互いのためになると思いませんか?」
紅林はちらっと美月を見たが、美月は窓の方に顔を向けていた。
「…怖じけついた?」
「………………」
一瞬、美月の眉が動く。
「…そうですね。後になってから、後悔の様な反省の様な…上手く言えませんが…先生には申し訳なかったと思います。いけない事をしたくなって、実際にしたら怖くなった…なんて馬鹿な話ですけど。」
美月は、外の景色を見ながら続けた。
「背徳感を味わえて満足したのかもしれません。」
生徒が先生と関係を持つ。
反社会的な行動。
「…だから若気の至りって事で、片付けて欲しいってことか…」
前を見ながら言う。
美月の家に着き、車を止めた。
美月は紅林に向き直り、ニコッと笑った。
「今日は、何もなかった。私達は、明日からまた普通の先生と生徒です。」
美月は車から降り、ドアを閉める時に
「今日は体調を崩し、ご迷惑をおかけしました。送って頂きありがとうございました。お気をつけて帰って下さいね。」
と告げた。
「………………。」
紅林は無言で、家に入る美月を見ていた。
それから、美月が保健室を訪れる事はなかった。