第6章 ゲスの極み【天童 覚】
カタカタ…
キーボードを打つ音だけが
妙に鮮明に聞こえることに気がつき
ふと時計を見ると
もう18:00を過ぎていた。
窓の外はすでに薄暗く、
正門の前の外灯が
パラパラとつきはじめていた…
『あっ、もうこんな時間…
そう言えば、齋藤先生に体育用の
備品整備頼まれてたんだ…』
私は立ち上がって伸びをし
ふぅ…と一息ついて体育館に向かった。
**
コツコツ…
包帯と湿布、テーピングなどがはいった
いわゆる救急箱を手に
明かりの漏れる体育館へ向かう。
備品の整備はいつも
体育教諭の齋藤先生が行ってくれているが、
今日は急用で代わりに私が整備することになった。
ガラッと扉を開けると…
「あぶないっ!」
という声と
ボールがこちらに向かって飛んできていた
『っ!!』
体を強ばらせて
ギュッと目を瞑ったが、
痛みは襲ってこなかった。
同時にバンッという音と
汗の匂いがする。
恐る恐る目を開けると
「センセーコンバンワー!」
と、笑顔を向ける性欲オバケがいた。
『てっ、天童くん!!』
私は驚いて
パチクリと目をあける。
「あっ、覚えててくれたァ?
うれしぃねェ〜
若利くんのボールなんて
殺人級だからねェ〜
あんまりウロウロしない方がいいよ〜」
”天童くん”はそんなことを言って
部活動に戻ってしまった。
そんな背中に
私はただ呆然と
『あ、ありがとう…』
とお礼するしか無かった。
(…び、びっくりしたぁ…
それにしても、天童くん
部活は真面目にやってんだ…
なんか意外……
って、早く仕事片付けなきゃ!)
私は足早に体育館の端っこにある
体育準備室に入る
ガチャ…
普段齋藤先生がお仕事されている部屋だが、
無人の部屋は不気味なほど
暗く湿った空気…
(ひょわぁあ…
こわいぃー!)
正直こういうのすごく苦手。
私はパチッと電気をつけて
体育館と繋がる扉をパタンと閉め、
さっさと備品の整備作業にとりかかる
棚が少し奥まったところにあり、
不足している物を補充していく。
(包帯は…っと…)
早くこの場から去りたい気持ちもあり、
焦って作業していると、
『あっ!』
コロコロ…
と包帯が手から滑り落ち
棚と壁の間に入ってしまった。
(あー、もうっ!)