第5章 悪役令嬢の憂鬱【黒尾 鉄朗】
夢を見た…
この体の持ち主の幼い頃の夢…
〇〇の過去の記憶…
幼い頃〇〇と鉄朗が交わした約束。
「俺が立派な王様になったら
お前は美しい王妃になれ!」
『はい。鉄朗さま。』
丘の上の花畑で
小さな花を摘む私の目の前に
仁王立ちになる王子様…
「お前は他の男に愛想を振りまいちゃダメだ。
俺以外の前では可愛くなくしろ!」
『ふふっ、わかりました。』
手を繋いで、話していると
彼の手が、私の手に絡みつく…
私たちは幼い頃
ちゃんと婚約者だったんだ…
**
『ん……』
目が覚めると…
「〇〇?…大丈夫?」
リエーフ様の顔が目の前にあった。
私はどこかのベッドで
寝ていたようだ…
もしかして…助けてくれたのかな?
(リエーフ様…ここは?)
と聞こうとした時…
『んんっ…!?!?!』
口をテープのようなもので
塞がれていることに気づいた。
「ごめんね…目隠しも付けてもらうよ…」
シュル…
困ったような顔で
目隠しの布を目元に当てようとする
リエーフ様。
私は抵抗するために
起き上がろうとするが
ガチャンッ
左手が引っかかって
上手く体を起こすことが出来ない…
頭の方を見ると
左手が手錠でベッドに
拘束されていた。
私が手錠に目を向けた隙に
首筋に顔を埋めるリエーフ様。
「俺からは逃げられないよ…
大丈夫…
兄さんみたいな
薄情者と違って…
俺は〇〇一筋だから…」
ネトォ…
うなじに舌を這わされ
『んんーっ!?』
ゾクゾクッ…と
背筋が凍りつく。
慌てて右手で
抵抗するが、
あっさりと
左手に括り付けられる。
(なにこれ…
どういうこと?)
困惑している間に目隠しをされて
目を開けても
何も見えない状況になった。
「兄さんも酷いよね…
〇〇さんという婚約者が居ながら
白鳥さんと愛し合ってるなんてさ…」
サラっと髪の束を手に取り
スーッと息を吸う…
(嗅がれてる…?)
ゾワゾワと
背筋を虫がはうような感覚に
恐怖と悪寒と気分の悪さが
湧き上がってくる。
彼の目的は一体何なの?
鉄朗様への復讐?
私への嫌がらせ?
それとも私のストーカー?
身を縮めて震える私の頬に
チュッとキスをする
リエーフ様。