第5章 悪役令嬢の憂鬱【黒尾 鉄朗】
彼はわざと私の隣にどかっと座り
メンチを切ってくる。
(ていうか、
見ていたような言い方ね…)
『そうですわね…
リエーフ様は一人の女性を
大切にしてくれそうですし、
隣に座っても安心できますわ…』
私は冷たい目でこう言い放った。
自分でも強がりだって分かってる。
貴方と白鳥麗子の関係は
私が許してやってるという体裁じゃないと
私が惨めになるから、仕方ない、
それに、
こんな可愛げのない婚約者が
今更彼女の所へ行かないでくれ
なんて縋りつけるはずもない。
「ほんと、可愛げないねぇ…」
鉄朗様は冷たく言うと、
ドサッ…
と、ソファに私を押し倒した。
『なっ、なにを……///』
私は彼の体を押しのけるように抵抗するが、
「今日は彼女と会えないからな…
相手をしてくれ…」
スル…と服の中に
忍び込む鉄朗様の手…
ゾクッ…
愛人の相手をしている
鉄朗様を想像してしまって
バチンッ
思わず平手打ちをした。
「…ッテェ…」
痛がる鉄朗様は
表情が見えない。
『最っ低…//』
ポロッと涙が零れたが
すぐに拭って
あくまで強い女を演じた。
『…私、これから用事がありますので、
…失礼します…』
彼を押しのけて
部屋を出る。
彼はまだ呆然としているようだったが
逆ギレされても怖いので
庭園の方に逃げることにした。
屋敷の外の庭園-
石畳の庭園をなんの目的もなく
ボーッと歩いていると…
いつの間にか
茂みの中を歩いていることに気がついた。
(しまった、森の奥の方まで来ちゃった。)
そろそろ部屋に戻ろうかと考えたが、
まだ鉄朗様が居ては困るので
また世界の端っこでも探すか…
と日暮れの森の中を
どんどん突き進んで行った。
日が落ちて
暗くなってくる。
(ゲームの世界だし、
怖いことにはならないわよね?…)
日が完全に落ちた頃…
ドンッ!!
『きゃっ!』
壁にぶつかって
尻もちを着く。
ここまでか…
私は屋敷を探すため
周囲を見渡すが、
暗くて何も見えない…
薄く光が見えるが、
ぼやけてすごく遠い場所のように感じる。
『あれ……おかし…な…』
目の前が…ぼやけて…
ドサッ
私は急な睡魔に襲われて
眠ってしまった…