第4章 大きいね【牛島 若利】
〇〇宅-
「マンションなんて借りてるんですね…」
水の滴る髪をタオルで拭きながら
部屋をキョロキョロと
見回す若利くんは、
不思議そうな顔をする。
『あ、うん…
基本的には実家で
暮らしてるんだけど、
お菓子作りとか勉強とかは
1人の方が集中できるからって
両親に頼み込んで家を借りて貰ったの…』
「…そうなんですね…」
あ、これ使って?
とたまたま持ってきていた
父の浴衣を渡して
洗面所に彼を案内する。
「あ、ありがとうございます…」
扉が閉まって
少し沈黙の時間…
暫く布が擦れる音が続いて…
部屋に戻ろうかな…と
考えていると
「…実家だと集中できないですか?」
と、扉の向こうで
若利くんが尋ねてきた。
『ええ。…来客はしょっちゅうあるし
使用人も3人ほどいて、
忙しなく働いてくれてるから…
ちょっと騒がしくて……
それに両親や使用人の方に
台所が占領されてしまって
使えない時があるし、
洋菓子用の器具が
あまり揃ってないっていうのも
理由の一つね…』
ガラッと言う音と共に
洗面所の引戸が開けられ、
浴衣姿の彼がまた尋ねてくる。
「老舗の和菓子屋さんなのに…洋菓子?」
(どうしよう…
この服しか無かったから渡したけど…
凄くかっこいい…//)
『え、ええ…
和菓子だけを研究したって
新しいアイディアや技術は
生まれないし
学校で習った洋菓子作りも
復習としてやったりするから…』
私は彼を直視出来ずに
俯いて目を逸らし…
洗面所から後退ってしまった。
「…そういうことですか…」
彼は納得した様子だ。
『じゃ、じゃあ私も着替えてくるね!』
私はそそくさと着替えを持って
隠れるように洗面所に入った。
「…//」
『…//』
なんだかドキドキする。
彼が扉を挟んだ向こう側に居るのに
私は裸同然の姿になって着替えている…
プチ…スル…
ホックやボタンを外す音や
衣服の擦れる音がやけに大きく聞こえる。
『…//』
(あんまり考えないようにしないと…//)