第1章 壱
町で大規模な移動が行われている頃、
目的地の美八学校では…
生徒全員体育館に集められていた。
美八学校の生徒は全クラス合わせ109人。
少ないような多い様な中途半端な人数で
今日から先生になってくれる六人を待っているのだ。
実は生徒の半数以上がファンだったりする。
「きゃー♡愛しの弘樹サマ。早く尚の所に来てくれないかしら~」
「ちょっと、私の弘樹サマよ!」
「『三年の奥村さんと、えー…何処から来たのか、優衣さんのおばあさん、マーズのレンジ弘樹さん争奪戦が始まりました~!
みんな「やれやれー!」と止める所か煽りまくってます!
さぁ!二人はどうでる… 』…って」
また始まったよ…。
一人ナレーション口調で喋っていた二年生の
森本優衣はそう言ってため息をはいた。
彼女が言うとおり
今喧嘩している二人は気が合わないのか
会えば喧嘩をしているのだ。
彼女じゃなくてもこの光景を毎回見せさせられてる
生徒や先生達ならため息も吐きたくなる。
「(まあ一番後ろやし対策に色々しとるで
大丈夫やけどさ…)」
もう一度はぁ…とため息をついていると
後ろから誰かが抱きついてきた。
振り返ると
茶色の髪にくりくりした大きな瞳の男の子…悟空がいた。
彼は後ろから抱きついたまま
首を傾げ真っ直ぐ優衣の顔を覗きみる。
「どーしたの??腹減ったのか?」
「いや…そーゆう訳ではないんやけど…」
歯切れ悪く言う優衣を尻目に
悟空はゴソゴソと
スボンのポケットを漁り
目当ての物が見つかったのか
ズボンに入れていた手を握りしめたまま
笑顔で目の前に差し出す。
「はい!これやるよ!」
そう言って
ニカッと笑いながら開いた手のひらに乗せられていたのは…
葡萄、桃、イチゴミルクの三種類の飴だった。
「まぁ、疲れた時は甘いモンだよな!」
持っていた飴を
彼女の手のひらに乗せイチゴミルクのモノを取ると
袋を開け赤と白の模様をした丸い玉を
差し出す。
口を開けるとそれを放り込まれ
口の中にはイチゴミルクの甘い味が広がった。
それに顔を綻ばせていると
悟空が笑ったのが空気で伝わってきた。
「有難うね、悟空」
お礼に頭を撫でると悟空は
「えへへ」と頬を掻きながら
照れ臭そうに笑う。
二人の間にはほほんとした空気が流れていた。