第10章 10話
「そう言えば、中学の頃逢沢と付き合っていただろう。あいつのおかげで散々な目にあったことがあったな。結局山吹はあいつの事が好きだったのか?」
「…好きでもない相手と付き合う何てことはしてないけどね。」
「とはいえ、結局は別れただろう。」
「何で付き合っていたのかな。」
当時を思い出すために少し遡ること1年前くらい。
丁度夏休み前の事だった。
私は掃除でゴミ捨てを任されゴミを持って歩いていた。中庭に接する渡り廊下に差し掛かったときだった。
「好き、です!!付き合ってください!!」
女の子の声に私はそっと耳を傾け、校舎の陰に隠れた。
「俺を好きになってくれてありがとう。」
相手の男子の声に私は息を飲んだ。掴んだスカートの裾はシワが出来ていた。それからはよく覚えていない。ゴミは多分きちんと捨てたのだろう、手にはなかったし。
気づいたら校舎にいて、その時丁度逢沢くんに会った。
それからだったかな、逢沢くんによく相談に乗って貰ったりしたのは。
あの時は赤司に先を越されて悔しかったとかそんな風に自分の気持を偽っていたのかも知れない。
だって、赤司は絶対私に興味ないって思ってたし。
この人は私なんて眼中にないって勝手に思ってたし。
思い出して赤面する顔を隠すために髪を弄るフリをする。その髪を私の指から掬い取り反対の肩に流し、露わになった頬を抓られる。
「林檎みたいだな。」
笑い出す彼の頬を私も仕返しとばかりに指先で摘まむ。お互い指を離すと少し頬が赤かった。
「私が男ったらしなのは赤司のせいだ、絶対そう。」
「何故そうなる?」
「絶対教えない、てか教えても私に何の得もない。」
「得か…。」
そう言うと、手を引っ張られ広い廊下に連れて行かれるのかと思えば直ぐそばの扉を開けて2階へ続く階段を登る。
「ちょっ。どうしたの?」
引っ張られる手も背も、いつの間にか私より広くて逞しくなってる背中も私を追い抜かして行くばっかりで狡い。
2階へ上がるとまた扉。開くとすぐ左手前が赤司の部屋でその奥に長く広がるのが書斎、音楽室、その他赤司が普段勉強室とかとして使う部屋。2階はほぼ赤司のためだけの部屋だ。そして、もう一階あるこの家の三階は両親の部屋だったと聞いている。
赤司が自分の部屋の扉を開け、入ると引っ張られている私も必然的に一緒に入ることになる。