第10章 10話
どちらから共なく引き寄せられた体は暖かい。触れた手、頬、首、胸、背中、いつも冷たい氷の様な人は本当はちゃんと暖かく、太陽の様な人である。
「山吹、手が冷たい。」
「赤司はあったかいね。」
私より10センチ背が高い彼のうなじに腕を回し引き寄せる。引き寄せたことで近づき、お互いの距離がなくなるあと数センチ。
「この続きは家に帰ってからだ。」
私の唇に優しく添えられた人差し指はイタズラが成功した様に怪しく笑う狼によって甘い空気を遮断されてしまった。
「帰るか。」
「うん。」
磁力の様な強い力で惹きあってしまった私達は背に回していた腕を離した後も離れ難く手を握っていた。
お互い家に着くまで口を開かなかった。と言うよりは開けなかった。いつもの雰囲気で話しかけていいのかもわからなかった。
そして、家に着くと外の冷たい外気に当てられた冷たい身体に熱を宿す様に抱きしめ合う。
額、瞼、私に触れる位置が段々と下に降り次にはもう唇に触れていた。
初めは触れるだけのキスだったが、角度を変え深くなる。
私の少し空いた口から舌が割り込み、口内を蹂躙される。
私も負けじとその舌に絡みつく。
「はっはぁっふっ。」
二人分の温度が玄関の冷たい空気を一気に暖め、甘い空気に濡れた水温が響き渡る。
「はぁっ。はぁっはっ。」
漸く解放された時には2人の間は銀糸で結ばれ、その糸が切れる前に赤司が私の唇ごと銀糸を舐めた。
それから、妖艶な笑顔で私を覗き込む。
「山吹、お風呂に入ったら俺の家においで。」
「…うん。」
私の背中と後頭部を支えていた暖かい手が私から名残惜しそうにゆっくり離れていく。
最後に一度手をぎゅっと握ると困った様に優しく笑う目と目が合う。
「ご飯の用意でもして待ってる。」
「…うん。」
ガチャン
扉が完全に開く瞬間までずっと向こう側を見つめていた。
私は扉が閉まるとすぐに部屋に行き風呂の用意をする。
唇に残った熱と暖かく湿った口内が気になる。
いつもの二倍、ドクドクと煩く鳴る心臓と身体に宿る熱に少し震える体を冷ますために早くシャワーを浴びよう。