第9章 9話
私の家に着くと赤司は私に鍵を出させ、鍵を開けると玄関の床に私と荷物とを下ろした。私は靴を脱ぎゆっくり立ち上がり、リビングの部屋に入った。
壁の電気のスイッチをオンにし、部屋の中央のソファに倒れこんだ。
赤司が手を洗っているのか洗面所の方で水の流れる音がする。
「山吹、何か食べられそうか?」
キッチンから声がする。久々に何か作ってくれるのかもしれないが今の私の身体は熱で食欲をなくさせていた。
「食べられないからいーよ、ほっといて。」
「そうか。」
聞いていたのだろうけど、きっとあいつは勝手に何かを作るだろう。なら初めから聞くなって。
キッチンからはトントントンと手際のいい女子顔負けの包丁裁きが繰り広げられている。それをBGMに私はソファの上で身体を丸めて目を閉じた。
気のせいか今日一段と酷い頭痛と目眩と吐き気と悪寒が迫ってくる。
心地よくはないが深い眠りに入っていた筈なのに突然額にヒンヤリしたものを感じ頭がだんだんと覚醒した。目は空いているにも関わらずふわふわとした心地でいるのは熱に侵されているからだろう。全く使い物にならない脳の代わりに目だけを必死に動かし状況を把握しようとする。
すると脇の下からピピっと音がする。
それを脇から抜き、床に置こうするとすっと私の手から奪われた。
「39.0度か高いな。明日お母さんに病院に連れて行ってもらうといい。」
「お母さんは…今週帰って…来ない…」
頭が痛くて声を出す度に頭に響く。
「そうか。着替えはするか?」
「したい…けど、私の…部屋に…ある。」
そう答えると、身体がふわふわと浮いた。今度は横抱き、所謂お姫様抱っこ。赤司は私が腕の中で揺れるのを最小限に抑えられる様ゆっくり階段を上がって私の部屋まで連れて行ってくれた。部屋のベッドに降ろされた。
「俺は今から一旦家に帰りシャワーを浴び、着替えをした後また来る。今日は泊まらせてもらうぞ。」
赤司が部屋から出て行く。
私は部屋着に着替えると自分のベッドに入った。今度はなかなか寝付けない。
さみしい。しんどい。さみしい。
早く戻って来てくれないかな。