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続・厄介な天帝さん

第9章 9話


その足音は私の目の前で止まった。

私とは別の呼吸の音が聞こえたのでおそらくは相手も私と同じようにしゃがんでいるのがなんとなくわかる。
呼吸が熱のせいで余りうまくできていなかったのにさらに追い打ちをかける様に活きが苦しい。

心臓がへんな緊張にドキドキした。

たぶん、顔を上げると高尾君がしてやったりの顔でにっと笑っているんだろうなって思っていた。
私はゆっくり頭を上げ、目の前の相手を確認しようとした。




するとそこには、私と同じようにしゃがみ込んだ人物が私に優しく笑いかけていた。



「すまない。俺としたことが待たせたね。」



落ち着いた優しい声、赤い少し切り過ぎた前髪に、キリッとした眉、雪みたいに白い肌、笑うと細くなる赤い両目。

「遅いよ、馬鹿阿保…」

私は必死に両腕を伸ばしてそいつ、赤司の首に飛びついた。勢い余った私の行動に予測していなかったのか少しよろけて尻餅を着いた。
本当は目を使えば幾らでも私の事なんて容易く避けられるくせに敢えて受け止め様とすることを私は知っている。

大きくて広い肩に私は顔を押し付けしっかりしがみつく。
私の背中に大きな少し冷たいけどしっかり熱を持った腕が回っているのをしっかり感じた。

「秀徳の高尾に山吹は何処かと聞きにいったが、体調不良の為すでに閉会式後1人で帰ったと聞いたと言っていたからもう帰ったのかと思い慌てて会場を飛び出し後を追ったが間に合わなかったと思い戻ってきたら吃驚だ。」

別に焦っているわけではないのに妙に早口で喋ってくる。
私はまた始まってきた頭痛を隠す様にぎゅっと抱きついた。
冷たい様で暖かい手が私の髪の毛を耳にかけ彼は優しく私の後頭部を撫でる。

「山吹、顔を見せて。」

そう言われて顔を上げると予想以上に近くて久々のこの感覚に心臓が異常を訴える。
目の前の顔は何処か慈愛に満ちていて優しい。いつもの近寄りがたい威厳はなく、ちょっと下がった眉に少し細まった目尻は赤くなっていた。

「そうだな…あー…俺は…えー…」

珍しく目をキョロキョロさせて言葉を濁す赤司が何だか可愛く思えた。

「上手い言葉が見つからないな。…ふー…」

キョロキョロソワソワし出した赤司と赤司の手を握る私。
言い淀む彼を私はまた待つ。
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