第9章 9話
長く寒い廊下はもうほとんど人通りはなく、おそらく閉会式の真っ最中だろう。
ぼうっと歩き続けると階段の前に出たので上がり続けると観覧席入り口の方のロビーに着ていた。
私は携帯を取り出すと電話帳から高尾君のメアドを引っ張り出し、絵文字も何もなく ''帰ります。''とだけ打った。
私は重い身体を引きずるように会場から出た。
外に出ると、もう夕日で日が落ちかけていた。
一人で帰るさみしさとさみしげな空とが合間って何だかさみしくなった。
私はそっとポケットに忍ばせておいた緑間君から貰ったのど飴の封を開けて口に放り込んだ。
飴は何だか酸っぱかった。
頬に流れるあったかいのか冷たいのかわからない涙。なんで流れているのかなんて全然わからない。ただ、言えるのは軽く失恋した気分だったって事だけ。
会場のゴツゴツしたブロック状の壁に背を預け震える肩を抱いて息を整え、心も落ち着かせようと試みるもうまくいかない。
私は、その場にしゃがみ頭を膝ごと抱え込んだ。
後方でバンッと勢いよくドアが開く音がした。
おそらく閉会式が終わり今から帰る選手だろう。そうなると知り合いの誰かかもしれない。もし、知り合いの誰かだとして、ここで私がこんな風にしていると心配されるのが目に見えてわかる。心配される事は嬉しいけど、人の手を煩わせたいわけじゃなかったので敢えて隠れようと思った。
私は、扉から死角になる位置に身体を少しずらした。
おそらく選手だろう相手の足音は私とは反対に行ったようで足音は遠ざかった。
急いでいたのだろうかすぐに遠ざかっていった。
私の位置からも死角のためか誰かはよく見えなかったが試合で疲れているだろうにあんなに走って人探しとは気の毒だなと頭の隅で合掌をしておいた。
それから数分後、今度はまた会場の中から何人かの集団の足音が聞こえた。私は彼らがこそこそ話しながら遠ざかって行くのを聞いた。
それからまた数分後に今度は会場の中からではなく外からの足音に気がついた。
それに私は少し焦った。
何故なら、私の位置だと後方からは死角になるが反対は丸見えだったから。
とはいえ、知り合いじゃなければ対して話しかけられることもないと思い、どうするでもなくじっとその足音が遠ざかるのを待った。
足音は私の願いも虚しく段々と近づいてくる。