第6章 6話
何を言おうか迷っていたら突然右腕を引っ張られて抱きしめられた。
高尾「ごめん。俺が試合中みたいに目を使ったらかえでちゃんの事見落とさなかったはずなのにな。」
彼は私の背中に手を回し壊れ物を扱う様に優しく、けれど強く抱きしめていた。
彼の顔が私の肩に埋められ、そのままで話してくるから息が耳にかかりくすぐったかった。
私「高尾君のせいじゃないよ!それに、私こんなに肝試しとか暗い場所は苦手じゃないのに今日は何だかダメだったみたいで…」
高尾くんは悪くないのにその背中を申し訳なさげに丸めている様に見える。
その様子にあの頃とは違う心境の変化に私は悟った。
それは私が大人になった証拠なのかもしれない、例えばこんな闇夜が怖いこと。
私がそうなった理由の一つとして今と昔の大きな相違点が思い浮かんだ。それは私が赤司に執着しすぎていた事なんじゃないかと思える。
そう考えると私はただ、あいつがいないだけでこんなに弱いやつだなんて何だか悔しかった。
私がそんな事を思っていると、不意に柔らかく暖かい物が唇に触れた。
それは高尾君の唇で、彼の唇はかさついてなくふわふわで柔らかく、弾力があって不安定。けど、温かい。
始めは触れるだけのキスはだんだん深くなり確度を変えて何度も何度も。私は目を閉じ、唇だけでその感覚を感じた。
彼の拙い舌の動きは私の事を思ってか前歯をかすっては引っ込んだりと彼らしからぬ消極的な物を感じた。
何処までも優しいんだなと思った。
高尾「…ごめん、辛くない?」
私「大丈夫!高尾君は優しいんだね。」
息が乱れていないのは高尾君が私の呼吸に合わせてゆっくりしてくれたから。
高尾「さぁ、そろそろ戻んないとな!」
私「そうだね。」
そう、頷いた私に彼は優しく微笑んで見えた。
口元がへの字になっていたのは照れ隠しかな。
私たちは皆の所に戻るまで手を繋ぎ、何も会話せずにただ夜の静けさを肌で感じた。
戻れば、黒子くんからは散々謝罪され他の人たちもみんな私に謝ってきた。
そう言えば、あの時私の耳元で「うらめしや」と囁いた人は誰だと黒子くんに聞いたけれど彼によればそんなのは聞いてないと言っていた。
では、いなかった高尾くんかと問えば高尾くんは確かにお化け役だったそうだが彼と他のお化けもお寺の手前の方に貼っていたらしいから彼も違うと。