第5章 5話
高尾「好きな奴がいてもいいぜ。 でもな、山吹ちゃんを笑顔に出来んの俺だけだと思うんだわ。…自慢に聞こえるかも知れねーけど俺ぐらいのコミュ力ないと真ちゃんとやってけないし、ここまでの大口叩かないぜ。」
私は高尾くんの首に回していた手を外し自分の頬を触った。
高尾「赤司と会った時言ったよな。…あいつといたら山吹ちゃん辛そうな顔してんだって。」
私は本当にわかりやすいんだろうか。
自分に呆れて溜息をついた。
その時、私の宙に浮いていた足が地についた。
高尾君が私の体を下ろし、目の前に立った。
時刻は日が大分西の空にある。
私達の影を何処までも伸ばしているこの光景はいつかの帰り道の様に思えた。
高尾「目、瞑って。開けちゃだめだかんな!!」
高尾くんに言われるままに目を閉じた。
蒸された空気と少しじめっとした風、夕方でも夏の太陽は主張が強い。
いつだったかあいつと湯豆腐を食べたあの日もこんな感じで蒸し暑かった。
耳にそっと蝉の音以外の柔らかな息遣いを感じた。
「僕を見ろ。」
その言葉に私は手を強く握った。
耳に届いた言葉は今聞く筈のないテノールの声。
目を開けてあいつがいないか確認したくて目を開きかけたが必死で我慢した。
「僕の側に居て僕だけを見ていればいい。山吹。」
私「僕の側にいろって見てって、その命令口調イラっとするんだけど。いつもいつも私を置いていくくせに偉そうだね!」
高尾君とわかっていても言い返してやりたくて仕方なかった。
少し私は嬉しいようなさみしいな様な気分だった。
「え、あ、ごめん。」
その瞬間動揺したのか高尾くんは真似ることを忘れて素で答えていた。
私「ごめんて、あいつは謝ったりなんかしないよ?…高尾くんは優し過ぎ。だけど、ありがとうね。」
高尾君はあいつに髪の色、顔、目の形なんて全く似ていないのに、あいつに近い身長と背丈のシルエットが似ている。
高尾「なんか付けいる様で悪いんだけど、俺本気なんだわ。こんくらいならいつでもやって上げるから俺にしなよ。」
私はそっと目を開け高尾くんの顔を確認すると彼は優しい目をしていた。
それから私は少しの間を空けて返事をした。