第4章 4話
その時は何が起こったのか全くわからなかった。
ずっと赤司の方しか見ていなかった私の不注意さが招いた結果だ。
私だって馬鹿じゃないから態々チカン男の方に走って行ったわけじゃない。
個人的には最短コースで1番早く着き、かつ安全に行ったつもりの筈だったのに…
「おい!!お前警察なんて呼んでみろ、こいつをぶっ殺すぞ!!」
赤司の元に向かう筈だった私はそれを阻止された。
私の首に回された太い腕と頬に感じる冷たい刃の感触。
その冷たい刃が少し私の頬を切って血が流れた。
赤司は焦りでイラついた表情を隠さず私を見ていた。
その顔がこのチカン男より何倍も私には怖かった。
「おい、ガキ。次妙な言動をしてみろ、わかってんだろな!?!?」
男の向けた言葉は赤司にだ。
さっきの上からの態度が許せなかったんだろう。
私の頬に食い込んだ刃がまた少し傷をつけた。
少しの間ホームは緊張感に包まれ、男と赤司の睨みあいは続いた。
丁度、駅に電車が停車し、沢山の乗客が降りてきた。
その瞬間、目の前の男が一瞬私から刃を離し客の方へ向けた。
その時既に動いていた赤司は何をどうしたのかきちんと見ていなかったが、男の持っていたカッターナイフを手で払い、男が怯んだ隙に私は腕からすり抜け赤司の後ろに隠れた。
赤司は男の持っていたカッターナイフを回収し私に渡し、逃げ出した男を追いかけた。
案の定、バスケをやってる赤司は一瞬で追いついた。
…そこからは警察が来るまでずっと赤司は男に関節技をかけたり時折顔面を殴ったりしていた。
赤司は力加減がうまいのか男の顔に痣は出来ず警察には何も聞かれずさっさとその場から離れることが出来た。
私はというと、軽くその場で事情聴取を受けただけで済んだのですぐに帰してもらえることになった。
赤司「タクシーを読んで待たせている。急ぐぞ。」
いつの間に手配していたのか赤司は私の手を握ると走って駅から出た。
タクシーに乗り込むと住所を伝え、すぐに走り出した。
赤司「山吹、こちらを向け。」
そう言って私の顎を乱暴に捕まえ半ば無理やり赤司の方に向かされた。
私「ちょっと!!なに??」
赤司「うるさい黙れ。」
赤司は私の頬にウエットテイッシュを当て、瘡蓋をえぐらないようゆっくり拭いた。