第2章 勘違い//氷室
「おはよう、氷室くん」
「…おはよう、真奈美」
俺は社会人になり、彼女と同棲して2年になる。
彼女の朝は早くて、俺は遅め。
だから毎日、彼女が出る時間に起こしてくれるのが日課だ。
「ご飯、置いてあるから食べてね」
「いつもありがとう…」
俺は起き上がり、彼女を引き寄せキスをする。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
真奈美が出て行くと、俺は用意してもらった朝食を食べて出勤の支度をする。
この前、敦と飲んだ時、「いーなー室ちんばっかりずるい」と羨ましがられたっけ。
そんな幸せな日が続いていたある日。
営業で外回りしていると、向こうから見覚えのある人影。
…真奈美だ。
しかも、隣にいるヤツは誰なんだ?
上司?
…いや、彼女は事務が仕事のはず。
外に出ることなんてあるのか?
と、俺に気付かない真奈美は、年上らしき男と腕を組む。
…?!
俺は信じられず、その場に立ち尽くした。
急いで真奈美のケータイに電話するも、出ない。
声をかけることが出来ないまま、二人はホテルに入って行った。
それからは職場に戻っても苛立ちが抑えられず、同僚に気を使われているのもわかっていた。
早々に仕事を終わらせ帰路に着くと、彼女に電話をかける。
『もしもし?どうしたの?今日は早いね』
「今から帰るけど、もう家にいる?」
『うん。ご飯作ってるよ』
「わかった」
家に着いたら、とりあえず事情を聞こう。
心を落ち着けるよう努めながら、自宅へ帰る。
「ただいま」
「おかえりー。もうご飯出来てるよー」
いつも通りの声が聞こえる。
いとしい彼女の声にすら苛立ちが起こる。
…やっぱりダメだ。
俺はキッチンにいるエプロン姿の彼女を抱き上げ、ベッドに向かう。
「え?え?!何?!」
何が起こっているのかわからない彼女は、驚いてジタバタと抵抗するが、構わずベッドに放り投げる。
「なんで、俺が怒ってるか、わかる?」
「え?なんで?…昼間の電話に出られなかったから?ごめん、でも仕事中で…」
「嘘ばっかり」
…俺はこの目で見てるんだよ、気づいてないかもしれないけど。