第3章 居候です
「おはよう」
次の日の朝、目が覚めたら隣にいるはずの黄瀬はいなかった。
キッチンで音がするので多分そこにいるのだろう。
髪の毛だけクシで解いて、キッチンに出る。
そこには気分良く鼻歌を歌いながらトーストを焼いて目玉焼きを作っている黄瀬がいた。
私に気づくと、とびきりの笑顔を向けた。
「…どうしたの。早いね」
「なんかちょー目覚めが良かったんスよ!やっぱアレっスかね!なまえさんのマッサージ!」
「ああ…」
昨晩、約束通りマッサージをしてあげた。
痛めやすい脚を中心に、腕、腰、肩、全ての筋肉を解した。
「まぁ、元気で何よりだよ」
「はいっス!ささ、ご飯出来たんで食べよう」
それにしてもこんなにも元気になるものかと、我ながら自分の手はゴッドハンドだと自画自賛したい。
そういえば中学の時も一軍の奴らにやってあげたなぁとか何となく思い返した。
「なまえさん」
「ん?」
「今度のオフの日、カラオケ行かないっスか?」
「えー、んー、」
「カラオケが嫌ならショッピングでも!」
「んー…」
「カフェでお茶したり!」
「…仕方ないなぁ」
「やった!決まりっスね」
と、本当に嬉しそうに喜ぶもんだから、バカじゃないのと言いながらも微笑ましくなったのだった。
「あれ、そういやお弁当も作ったの?」
「もちろんっスよ!」
「やるじゃーん」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でると、崩れるっスよーと言いながら楽しそうに笑った。
マゾなのかなぁなんて冗談は置いといて、本当に犬みたいで更にぐしゃぐしゃと撫でてやった。
「うし、じゃあ行こっか」
「はいっス!」
朝から楽して美味しいものを食べて、私は気分が良かった。
だから黄瀬が人気モデルということを、忘れていた。
…そして事件は起きた。
「いやっ、ただの居候だってば!」
「でもさー!」
突然広まった私達の噂。
「てか、なんでこんな広まってんの。怖いんだけど」
「ファンのストーキングらしいよ」
「は?!ストーキング?!」
「あんたらが仲良すぎて、疑問に思ったファンの子が追っかけたら、一緒の部屋に入ってった。らしいよ」
「え、怖い。女子怖い」
人気モデルって大変だな…。
なんて他人事のように思ったけど、一番ヤバいのは私じゃないだろうか。